広島新井を復活へ突き動かす思いとは…

【2015年5月10日デイリースポーツより】

 ふと、スタンドを見上げた。赤いユニホームが、鮮やかに揺れていた。真新しい「28番」、少し古びた「25番」も見える。背中には「ARAI」。8年ぶりに広島に戻ってきた。変わらぬ声援、笑顔で迎え入れてくれたファンの姿に、新井は胸を打たれている。

 「うれしいね、やっぱり。移籍してからも、ずっと捨てずに持ってくれていたってことでしょ。ありがたい」

 9日の阪神戦(甲子園)では「4番・一塁」でスタメン出場。五回に今季1号となる2ランを放つと、七回には中前2点打。2安打4打点と活躍した。試合途中に左手甲の痛みを訴え、その後、大阪市内の病院で「左手中指伸筋けん脱臼(だっきゅう)」と診断されたが、チームは最下位を脱出した。

8年ぶりの古巣復帰。オープン戦中には右肘の痛みを訴え「右肘関節炎」と診断された。開幕は絶望的な状況だったが、1週間を待たずに、キャッチボールや打撃練習を再開。「できる」と言い続けた。緒方監督は代打起用を前提に、開幕1軍メンバーに入れた。新井は「出ろと言われたら、スタメンでも出る」と言った。復活に燃える新井を突き動かす思いとは何なのか…。

 プロ17年目、38歳。昨季は94試合の出場で打率・244、3本塁打、31打点だった。腰椎の疲労骨折を発症した08年を除けば、14年ぶりに出場100試合未満。オフには「もう一回勝負したい」と阪神を自由契約で退団する道を自ら選択した。年俸は昨季2億円の10分の1となる2000万円。阪神から提示された8000万円よりも大きく下回った。

 7年間過ごした阪神への感謝は尽きない。それでも「最後は育ててもらったところで、燃え尽きたいと思った。カープに恩返しがしたい」と、8年ぶりの復帰を決めた。

 1998年度ドラフトで広島から6位指名を受けて入団。駒大時代は通算2本塁打だったが、広島はその潜在能力、将来性にかけて新井を指名した。入団後は猛練習で鍛え上げ、新井も期待に応えて本塁打王を獲得するまでに成長。阪神に移籍してからも、広島への感謝の思いを忘れたことはない。  そして、プロ野球人生集大成の舞台を用意し、もう一度温かく迎えてくれた広島。もはや年俸など関係なかった。燃え尽きるまでチームに貢献することが、自らの使命のごとく、全力プレーを貫こうとしている。  4月17日の中日戦(マツダ)から4番に定着。代打でも4番でも、その思いに変わりはない。守備に入ればピンチで積極的にマウンドに足を運ぶ。4月30日のDeNA戦(マツダ)ではアウトにこそなったが、内野ゴロで一塁にヘッドスライディング。その背中に引っ張られるように、菊池が、安部が内野ゴロで一塁へ飛び込んだ。

 「“お帰りなさい”と大声援をもらって。まさか自分がこんなにしていただけるとは、夢にも思ってなかったから。本当に感激した。今度は自分が、少しでも喜んでもらえるように。チームとして優勝もそう。ファンの方に恩返しがしたい。その一心でやっている」

 阪神へ移籍した際には、批判する広島ファンもいた。球場でもやじられた。それでも「25」のユニホームを捨てずに持っていてくれたファンは大勢いた。その思いに応えるためにも、死に物狂いで完全復活を目指そうとしている。

 4月11日の阪神戦。公式戦では、復帰後初めて訪れた甲子園球場で、敵味方なく球場全体から拍手を受けた。ひたむきにプレーする姿は、ファンの心にも届いている。

 まだまだ、ここから。新井自身、いまだ経験のない、そしてチーム24年ぶりのリーグ優勝を簡単にあきらめるつもりはない。38歳「恩返し」の戦いは続く。

(デイリースポーツ・田中政行)

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