ソフトB吉村、奇跡弾 熊本へ勇気

 「ソフトバンク9-7楽天」(17日、ヤフオクドーム)

 福岡県出身のソフトバンク・吉村裕基外野手(31)が延長十二回に劇的なサヨナラ2ランを放った。代打で登場した九回2死では起死回生の同点3ラン。なんと、これが今季初安打。2打席連発のヒーローは、お立ち台で熊本地震の被災者に思いを寄せた。救援陣も踏ん張り、4点差をひっくり返したチームは6連勝。サヨナラ勝ちは今季チーム初だ。この勢いで19日から敵地で首位ロッテ3連戦に挑む。

 起死回生を現実化した。念ずれば通ず。吉村のバットに無形の力が宿っていた。最初は3点を追う九回裏の代打。一、二塁ながら2死、フルカウントと「あと1球」の状況から、松井裕の直球を右翼テラス席へ放り込む。余勢を駆って同点の十二回裏。無死一塁で戸村の高めに浮いた球を、今度は左翼席へ放り込んだ。5年ぶり3本目、移籍後初のサヨナラ弾。離れ業の男はお立ち台で打ち明けた。

 「悔しい状況が続いていたけど、先日の地震があって、打てないぐらいでどうこう言ってたらダメだなと。いろんな苦しみを持って闘っている人がいる。自分がやれることをしっかりやろう、と心に決めて」

 熊本地震の影響で試合が中止された前日まで、開幕16打席無安打。「結果が出なくても、いい場面で頼むよ!」。工藤監督や打撃コーチ陣の声掛けが温かく、申し訳なかった。折しも、自主トレ地でもあった熊本で大災害。知人の店舗のガラスが割れ、家屋の中が散乱した現況を聞く。「自分の悩みはちっちゃいな…」と省みた。福岡で余震に身構えつつも、思った。「寝るところがあればいい」

 土壇場で追いつき、しのぎ、今季パ・リーグ最長の4時間52分を競り勝った。「すげえ!鳥肌2回立っちゃった。すげえの一言」。興奮さめやらず「今年イチ」とも形容した工藤監督は「(試合前に両軍選手が協力を呼びかけた)募金もそうだし、最後まで諦めないプレーが出ていた。少しでも力になれれば」と被災地を思う。

 プロ野球の思いは一つ。お立ち台の吉村が代弁した。「僕だけじゃなくホークス、他球団の選手も全員、気持ちを込めてやっています。先日、内川さんが言ったように僕らは野球選手。野球しかない。でもそれで勇気を与えることができれば、また応援してもらえると思うんで。一生懸命、僕らは戦っていきます」。周囲のお膳立て。ものにした一振り。一丸の劇勝だった。

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