ドラフト候補を攻略した報徳学園の準備力と徹底力
2回戦屈指の好カードと見られていた。兵庫大会で実現した報徳学園-須磨翔風の試合。試合前の評判ではドラフト候補の須磨翔風・才木浩人投手(3年)を、報徳学園打線がどう崩していくかに焦点が集まった。だが試合結果は5-1。1959年以来、初戦敗退がない伝統校が底力で圧倒した。
決して才木の状態は悪くなかった。阪神・熊野スカウトが「今年一番の内容」と評したように、右打者のアウトローに決まる直球のラインは高校生では簡単に攻略できない軌道だった。
なぜ、報徳学園はそんな才木を打ち崩すことができたのか-。それは準備力と徹底力にあった。
6月末に行われた兵庫大会の抽選、初戦で須磨翔風と激突する可能性が高まると、永田裕治監督(52)はすぐに対策へ動いた。
開幕となった7月9日までに、会場となるベイコム野球場を出来る範囲で借りた。そこで隣県の強豪校に連絡を取り、才木と似たタイプの投手と練習試合を行った。別の日にはチーム内で紅白戦を行い、グラウンド状態や、フェンスの跳ね返り方などをくまなくチェックした。
須磨翔風が初戦を迎えた10日には、早朝5時に学校のグラウンドへ集合し練習。そこからバスで明石トーカロ球場へ移動し、全員で才木の投球をチェックした。その偵察を踏まえ、試合前のミーティングでは右腕の決め球とも言える右打者のアウトロー、左打者のインサイドに来る直球を狙うように指示。ただ一回り目で配球パターンが変わっていたと判断すると「カウント球の変化球も多かったし、二回り目からは各打者に好きに打たせた」と永田監督は指示を変更した。
すると三回に小園海斗内野手(1年)の中前打を皮切りに先取点を奪った。同点に追いつかれた直後の六回には佐藤直樹外野手(3年)が浮いた直球を左翼席場外へ運んだ。以降は偵察の時に「走れる」と判断した通り、バッテリーのスキを突いて4盗塁を重ね、ジワジワと引き離した。
小園が「練習でグラウンドの状態とかを把握していたので、バウンドを合わせることができた」と語ったように、堅守で投手をもり立てた報徳学園とは対照的に、須磨翔風は失策にならない守備のミスが破たんを招いた。
試合後、永田監督は「しっかり準備をしてきたので」と語った。開幕前には関東まで遠征し、ドラフト1位候補の横浜・藤平尚平投手(3年)、花咲徳栄・高橋昂也投手と対戦。試合中、選手に才木の印象を聞くと「藤平と比べても対応できます」という答えが返ってきたという。
それだけの準備をしてきたことが、才木攻略へつながったのは明白。さらに日頃から作戦を徹底できる力があり、一回り目に狙い球を徹底できたからこそ、二回り目に作戦変更の選択肢が生まれた。
よく高校野球では公立と私立の環境の違いを指摘する声が多い。だが専用グラウンドを持たず、大多数の部員を抱える報徳学園の練習環境は、優遇される公立校より恵まれているとは言い難い。特に昨年はグラウンド改修のため、冬場は各地のグラウンドを間借りして練習を重ねていた。有望選手の入学に関しても学校が内規する学力が求められている。
上記した準備は、どの学校でも“やろうと思えばできる”こと。そこを徹底してできたか、寸暇を惜しんで勝負にかけられたか-。その違いが5-1というスコアを反映していたように感じる。
半世紀以上にわたり、夏の兵庫で初戦敗退がない伝統校の強さ。群を抜く勝負への準備力と徹底力が、聖地を沸かせるモスグリーンのユニホームに受け継がれている。(デイリースポーツ・重松健三)