花咲徳栄・高橋昂を支えた学生コーチ 「いい夢を見させてくれてありがとう」
「全国高校野球・3回戦、作新学院6-2花咲徳栄」(17日、甲子園球場)
花咲徳栄が敗れ、2年連続の8強入りはならなかった。
今秋ドラフト1位候補左腕・高橋昂也投手(3年)は四回から救援して5回1失点。力投も及ばずに聖地を去ることになったが、今大会の“ビッグ3”の一角として注目を集めた、エースの成長の裏には、1人のチームメートの存在があった。
清川旺(おう)投手(3年)。選手兼学生コーチとして、チームを支えてきた。今年1月、岩井隆監督から「高橋昂の負担を減らしてやって欲しい」と頼まれ、難しい役割を引き受けた。「自分に務まるかなと思ったけど、やるしかないと思った」と振り返る。
投手コーチの清川は、指導者と投手陣とのパイプ役。自分の練習だけでなく、各自の練習メニューを聞いて指示を出す。投球練習をしている高橋昂に岩井監督がつぶやいたことを伝えに行ったり、高橋昂が指揮官に言えない時は代わりに伝えたり。試合の時はいつもベンチで岩井監督のそばにつき、バッテリーについての考えをノートにメモし続けた。
野手担当コーチの富永洋捕手(3年)と2人、とにかくよくしかられた。寮の部屋で休んでいても、誰かを呼ぶ声でハッと目が覚める。「投手のこともチームのことも言われるので。とにかく我慢でしたね。他の人の名前が自分に聞こえたり。厳しいことを言われた次の日は、起きるのが嫌でした」と苦笑する。
それでも、大変な役目をこなせたのはチームのためだ。昨年からAチームに入り、高橋昂とずっと一緒に練習してきた自負もあった。微妙なフォームの違いも指摘。「全員に声をかけた方がいいよ」と助言すると、試合中に頻繁に野手陣に声かけするようになった。
今夏の埼玉大会では1試合に登板した清川。甲子園ではベンチを外れ、練習のサポートに回った。1、2回戦で体重移動の感覚のズレに悩んでいた高橋昂に、好調だった埼玉大会の映像をチェックしてアドバイス。フォーム修正を図ったエースは、この日の3回戦では真ん中付近の直球でも打者に空を切らせるなど「今日が一番よかった」と、復調を実感していた。
敗戦後のインタビュールーム。アルプスでの応援を終えて合流した清川は「高校から投手になった自分が、ベンチに入れるようになるとは思わなかった。コーチをやったから、人間的にも成長できた」と、たっぷりの充実感をにじませた。
一番近くで苦楽をともにした高橋昂には「よくやってくれました。一緒にいい夢を見させてくれて、ありがとうと伝えたい」と、感謝の言葉を口にした。
今後は大学進学を希望するが「野球はやめます」と宣言した。それも高校野球生活を“やりきった”からこそ。「またこのメンバーで集まって、笑い話ができれば。寮生活は濃かったし、本当に楽しかったので」。縁の下の力持ちはナインを見つめ、最後までニコニコと笑っていた。