山下智茂氏、作新学院・小針崇宏監督対談【5】心に響いた『野球を愛しているか』
デイリースポーツ評論家の山下智茂氏(71)=星稜総監督=に作新学院の小針崇宏監督(33)が、昨夏の覇者・東海大相模に影響を受けた、甲子園期間中の練習の秘密を語った。【1】~【5】でお届けする。
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小針崇宏監督(以下、小針)「試合前日は少し調整します。去年の(甲子園中の)練習が、偶然3回くらい東海大相模さんの後だったんです。早めに到着して選手に(東海大相模の練習を)見させたんですが、こういうところが優勝するんだろうなという練習をされていた。大会中に投手が200球くらい投げ込んでいる。試合日ではなかったですが。本番を想定してそれ以上の練習をしている。各選手がすごい声を出して、次の対戦相手の名を挙げて『スライダー打ってやろう!』とマシンをガンガン打っている日もある。次の日は勝負に徹した紅白戦を本番のようにやっている。大会は初戦が始まったばかりだったけど、こういうチームが優勝するのかなと思ったら本当に優勝した。僕らは負けちゃって」
-その影響を受けた。
小針「その雰囲気を選手たちに味わわせて、来年来たらこういう練習したいなって思っていたんです。今年はチャンスがあったので、選手にもその話をして、そういう雰囲気で実際にやれた。楽しい明るい雰囲気で、なおかつ厳しさもありと。去年からつながっていたと思う。だからこそ甲子園の試合は楽しめたのかも」
山下智茂氏(以下、山下)「そういう練習をしていると聞いて(大会中に)ますます作新が優勝すると思いました。それで今井にも注目していた。フォームがすごくきれい。肩は開かないし、バランスがいいし、球筋はいいし、コントロールがいい。これはドラフト1位だと。あと5キロ太ったらすごい投手になれる。楽しみにして見ています。バランスのよい江川を細くしたようなフォーム。なかなかいないね」
小針「大して制球もよくなかったんです。いいボールと悪いボールがはっきりしていたので、まさかあそこまでやるとは」
山下「あれだけのポーカーフェース。表情を出さない投手は打ちにくい。監督も同じ。小針監督も出さないから相手監督はやりにくい。感情を出してくれる方がやりやすい」
小針「そんなに出さない感じでしょうか」
-小針監督は監督10年目で春1度、夏7度の甲子園。夏に強い。
山下「夏に甲子園に出るチームは鍛えているチーム。5、6月に鍛えているチームは、夏に甲子園が迎えに来る。夏将軍になれる」
小針「6月の強化合宿が始まったのは野球漬けにしたかったから。2013年からで4年目です。その年も本当に力がないチームで、何か変えたかった。ずっと合宿を続けているのは、始まった年の夏の決勝で九回2死走者なしから2点を取って逆転をし、九回裏を守り切った。選手はその前に初めての合宿で今までやっていないことにトライして、苦しい思いもした。野球の神様をすごい感じたので(合宿が)やめられなくなってしまって。そこでの頑張り、踏ん張りへのごほうびなのかと、不思議なこともありました。奇跡的なことは必然的に起こるのかも。精神的なことが大きいんですかね」
山下「追い込んで追い込んでと練習すると強い。最近の指導者はそれが難しいね。一人一人の限界は違うけど、限界の限界をいかに伸ばしてやるかが大事。僕らの時代はぶっ倒れたら水をかぶってまたやれたけど今はそうはいかない。そういう選手の方がここ一番でやってくれる」
-監督として努力していることは。
小針「本を読んだり、自分のトレーニングも冬の間はやります。メニュー組んで朝選手がいない時にやったり。いいノックを打ちたいと思いますから。筋肉が落ちると自分も自信がなくなるので、隠れてやっています(笑)」
山下「今は順調に来ているけど、40代、50代になるとスランプになる時があるんだよね。人は自信や信念がある時には、他人が何を言おうが気にならない。でも、自信がなくなると人のまねをしたくなる。その時が要注意。絶対に自分の信念を曲げないでやることが大事だと思う。他人が気になってくるとダメ。スランプに入ってても、それだけは曲げないで『小針野球』をやって欲しいと思う」
小針「監督としての強さが必要ですね」
山下「(信念を貫くには)やっぱり好きという気持ちじゃないですか。それだけは絶対に譲らないと。日本一野球が好き、生徒が好き、グラウンドが好きなんやと、私はそれだけで38年通しました。絶対に情熱は負けないと。でも、負け始めると、どうしても他はどんな練習してるのかと考えだし、勝てなくなる。原点に帰らないといかん。これは自分の体験です」
小針「甲子園塾の時も、山下先生は『選手を愛しているか』『野球を愛しているか』と言われていた。『愛』という言葉が出てくるのがすごく印象深かった。恋愛じゃなく野球で『愛』という言葉を出していいんだと。それからは、野球で『愛』と使おうって。ズバッと心に来た言葉でした。選手にも(自分たちは)野球を愛しているやつらの集まりだと、クサい話をしたり」
-部内での上下関係は厳しい?
小針「そんなには言いませんが、上級生には尊敬される先輩になれ、下級生にはある程度上級生に気をつかえとは言います」
山下「適度な縦の関係は大事。ただ、いじめなどがあると連続で甲子園には出られなくなる。これだけ甲子園に出ているのはチームワークがいいということ。監督と選手がうまくいっているということ。いい補欠がいるということ。いい補欠がいればチームは絶対強くなる。みんなあいさつがすごい。これが作新の伝統なんでしょう。応援したくなるチームだね」(終わり)