山下智茂氏、作新学院・小針崇宏監督対談【3】春季大会『今井隠し』の真相は…

 デイリースポーツ評論家の山下智茂氏(71)=星稜総監督=が、名門復活を果たした作新学院の小針崇宏監督(33)にチームづくりの理念を聞いた。春季栃木大会でエース今井の起用を封印し、夏に向けて投手陣の底上げを目指した手腕に山下氏は感嘆。また、選手の個性を見極める方法にも共感した。【1】~【5】でお届けする。

  ◇  ◇

 -スタメンや打順変更などを積極的に行うが。

 小針「選手、チームの力を全部発揮したいという気持ちがあります。(初めて甲子園に出た)2009年の長野日大・中原監督のベンチで準備するそぶりとか動きを見ながら、チームの力を発揮させるのはこういうことかと思いました。悔いのない戦い方というイメージがあった」

 山下「甲子園でも選手を代えたらズバリと当たるもんね。すごいと思った。生徒の全部を見ているんだね。(部員は)3年生も入れると100人を超えていたのに」

 -コミュニケーションの取り方は。

 小針「練習の取り組みや姿勢を大事にし、そこで判断しているつもりです。とにかく練習がすべてという考え。頑張り方次第で大会での勝負は決まると」

 山下「(甲子園で背番号3の)入江は春は背番号1だったよね。背番号18の今井が夏に1番になった。どういういきさつがあったの?」

 小針「結果的に『今井隠し』と言われたんですけど、そうではないんです。今井に頼らないで、入江と左腕の宇賀神の2人で春は勝っていくと決めました。今井は関東大会へ行けたらそこからで、負けたらトレーニング期間にすると。チームには入江と宇賀神、(内野手の)藤沼の3人で県大会で優勝しようと言ったんです。エースは今井かもしれませんが、それは夏。春は入江がエースで頑張っていこうと」

 山下「でも、入江も140キロ超出す投手でしょ?それで納得するの?」

 小針「練習試合で毎週3人を競わせて、誰が見てもエースは今井だと選手たちも納得していました。でも正直、今井だけでは夏を乗り切れない。県大会は入江も宇賀神も投げることになると思ったので(入江を育てるために)春はお前が主戦で頑張ってくれと。入江と宇賀神で勝負だとチームには話しました。準々決勝で敗れてしまったので、もう少し行きたかったけど」

 -今井は納得していたか。

 小針「夏に戦うための準備期間。春はきついことに取り組む時期だと納得していました。入江も(夏は野手として)頑張らなくてはいけないと一塁や外野で4番を打ち、4番らしくなって大会に入った感じでした」

 -「5番・三塁」だった藤沼竜矢選手が、夏の栃木大会決勝で骨折。試合に出られないのに甲子園でベンチに入れた。

 小針「彼の今までのプレースタイルからです。練習試合では捕手以外を全部守り、リリーフでも投げた。右打者としても活躍してくれた。普段の取り組みも。プレーはできないけど、伝令に徹してベンチで声を出したりできる。藤沼が外れるのは、チームへの影響が大きいと考えた。今までの貢献度から、その存在は大きかったので」

 山下「なかなかできないことだよ」

 小針「チーム全体におごりというか、自分たちは強いからこれで完成だというような感じがまったくなかった。それが、いいように作用したのかな。去年の3年の方が力があった気がするが、それでも勝てなかった。今年は去年より力がないから、もっと練習して力をつけようと思った。そういうのがよかったのかな」

 山下「監督さんが弱い弱いと言うチームは勝てる。今年は強いなというチームは途中でこけたりする。弱いと徹底的に基本をやるから、粘り強く勝ち上がっていく」

 小針「スキが生まれにくいというのがあるかもしれません」

 山下「(箕島との)延長十八回のチームも弱い弱いとしか言わなかった。その前が小松辰夫(元中日)で甲子園4強だったので強かったぞ、と。監督のそういう駆け引きはあるよね。僕は夏のチームづくりをするときに、(選手から練習の)ボイコットを受けるようなことをやるんですよ。意識して。ガンガンしごいて、早くボイコットしてくれんかなと待っている。その前にしっかりした主将とマネジャーをつくっておく。すると、そこからチームがまとまってくる。これで甲子園に行けるなとなる。弱いチームの時、個性派の多い時にやるんです」

 小針「きついこととか苦しいことを経験していくと、勝手にそういう雰囲気が選手の中から生まれてくることはありますね。(試練を)乗り切ったというか」(4に続く)

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