山下智茂氏×履正社・岡田龍生監督対談【1】2年冬に山田哲人が「変わった」
星稜総監督の山下智茂氏(71)が次世代の高校野球を考える企画。今年最後となる第10弾では、今月の明治神宮大会で初優勝した履正社の岡田龍生監督(55)を訪ねた。2年連続トリプルスリーのヤクルト・山田や2010年本塁打王のオリックス・T-岡田ら強打者を生んだ同監督の野球理論を、松井秀喜を育てた山下氏が深く掘り下げた。
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山下智茂氏(以下、山下)「明治神宮大会優勝、おめでとうございます」
岡田龍生監督(以下、岡田)「ありがとうございます」
山下「テレビで見て、安田(尚憲)君の打撃にほれました」
岡田「去年から4番寺島(ヤクルト・ドラフト1位)で、安田を6番に入れていたのが大きかったと思います。伸びましたね」
山下「打撃は超一流。守備には、まだ課題が?」
岡田「スローイングなどはまだまだこれからです」
山下「松井(秀喜)も守備は下手でしたが、毎日ノックして鍛えました。打撃がよくなると守備もよくなってきますね」
岡田「山下先生は、5番の育て方はどうされていましたか?T-岡田(現オリックス)がそうでしたが、絶対に歩かされるという4番の時の5番をどう育てるか」
山下「実は、松井は5連続敬遠まで一度も敬遠されたことがなかったんですよ。みんな松井と対戦したいと思っていましたから、打たれても『またお願いします!』と言ってね。ところで、甲子園塾に講師に来ていただいた時には、岡田監督の打撃理論がすごいなと思ったんですよ」
-新入生に、最初にやらせることは。
岡田「緩い球を木のバットで打たせたりしますが、ほとんど黒土を超えていかないですね。中学ではそれなりの選手なので、みんな自信を持って入ってくるんです。でも、本当にきちんとした基本が身について技術で打っているかどうか。マシンから来る球のスピードと金属バットの能力で飛んでいるのに、本人は自分の力で飛ばしていると勘違いしていることもあります」
山下「マシンでガンガン飛ばせても、プロで通用しないということは多いです」
-T-岡田、山田らは入学時から違った?
岡田「岡田は、こんなに球を飛ばすやつが世の中におるんかと思いました。僕は高校通算1本で、しかもランニングホームラン。全然球が飛ばなかった。けど、岡田は引っ張りだけでなくどこへでも飛ぶ。これは、教えてもできんと思いました」
山下「松井も飛んだけど、飛ばすだけ。あとは全然でした」
岡田「山田は全然飛ばなかったです。ただ身体能力はずば抜けていた。足が速い、瞬発力がある。でも、考え方がでたらめやった。さぼりはしないけど、野球で(身を立てる)なんてさらさらなかったように見えたので、もったいないとしか言ってなかった」
-何かきっかけが?
岡田「2年秋にPLに負けてからプロに行きたいと言い出した。岡田が年末に(自主トレで)帰ってくるから話を聞いてみろと言うと、自分から何か聞いてました。それからは、これが山田かというくらい練習して、まったく手がかからなくなりました」
-そこから一気に才能が開花した。
岡田「コーチから、プロのスカウトは試合で打ったかどうかより、試合前のキャッチボールを全力で放っているかとか、ベンチでどうしているかとか、そういうのを見ているぞと言われてから、ゲーム前の遠投でも全力で放っていた。そうしたら、持っているものがガッと出てきました。(2年の)12月くらいは、プロのリストに載っている選手じゃなかったけど、3月くらいにうわさになってたくさん(スカウトが)見に来るようになった。3年春に大阪で優勝して近畿大会に行った時には、各球団の上層部はみんな見に来てました。私自身、高校生というのはきっかけでこんなに人間が変わるのかと思った。山田にその点を勉強させてもらいました」
山下「松井もプロは全然頭になかったんです。大学で慶応(に行きたい)ということと、甲子園としか言わなかった。私が『1年で石川No.1、2年で北信越、3年で日本一。王、長嶋のようなスーパースターになるんだ』と目標設定すると、本人がすごく変わりました」
岡田「それまでの山田は、人の話にハイとは言うけど、右耳から左耳だった。でも、ちゃんと人の話を聞かないとあかんと思ったらしいです。その3月から高校生活の終わりまで、伸びる一方で終わった。甲子園に行って本塁打を打って選抜チームに選んでもらった。成功体験があいつを変えたと思います。人の話を聞いてやってみたらこういうこともあるとわかった。だから、幸運なことに(山田を育成した)杉村さん(ヤクルト・チーフ打撃コーチ)との出会いでも、しっかり話を聞いたと思うんです」(2に続く)