広島、FA選手獲得ゼロでも人気の秘密
リーグ3位の広島カープが、2位の阪神タイガースにCSファーストSで連勝した。阪神ファンの聖地ともいえる甲子園で、左翼席、三塁側アルプススタンドはカープファンで真っ赤に染まった。15年連続でBクラスに沈んでいたチームの躍進。ファンはこの時を待っていた。
昨年まで数年、広島に住んでいた。そのときに感じたのは、広島でのカープの存在の大きさだった。町にチームが根付いている。誰もがカープのことを気にかけている。生活の中にカープがある。そんな印象だった。
市民球団としてスタートし、球団が経営危機にひんした時には、球場に樽を置いて募金したという。ファンはなけなしのお金を寄付して、球団を支えた。かつての本拠地・旧広島市民球場は、原爆ドームと向かい合わせにあった。カープは広島戦後復興の象徴であり、広島県民の希望だった。そしてチームへの愛は、親から子へ、子から孫へと受け継がれている。
しかしここ数年は、ビジター球場でも多くのカープファンの姿がある。“カープ英才教育”を受ける広島では当然だが、遠く離れた関東地方でもファンが増えているのは不思議だ。そこにはさまざまな要因があるだろう。その一つが、カープが“持たざる者”だからではないかと思う。
1993年FA制度導入以来、カープは12球団で唯一、FA選手を1人も獲得していない。2010年オフ、横浜(現DeNA)の内川がFA宣言したとき、球団史上初めてFA選手の獲得に乗り出したのだが、ソフトバンクにあっさりと敗れている。
親会社を持たない独立採算球団。補強費には限りがある。マネーゲームになれば資金力のある球団には太刀打ちできない。ドラフト、外国人選手、トレード。あとは育てる。それしかない。
ただ、育てた選手も次々と流出していった。FAでは川口、江藤、金本、新井貴、黒田が他球団に移籍。いずれも投打の主力、チームの柱というべき選手だ。契約交渉がこじれて移籍した外国人選手もいる。1998年から15年、Bクラスが続いたのは、必然とまでは言わないまでも、いかんともしがたい面もあったのだろうと思う。
カープは奪われ続けてきた。育ててもまた奪われた。「カープに勢いがあるのは鯉のぼりの季節まで」と揶揄された。戦力がないから5月には失速するという意味だ。そして巨大戦力を持つ球団に踏みつけられ、下位に沈んだ。
しかし今年は違った。シーズン終盤、驚異的な勢いで白星を重ね、3位に入った。借金3だったことはこの際、置いておこう。スタメンは外国人選手以外、ほぼ生え抜き。年俸1億円以上の選手はいない。“持たざる者”が、自前で選手を育て、はい上がった。
補強を繰り返し、毎年優勝争いをする。プロ球団としてあるべき姿なのかもしれない。しかしその結果、毎年毎年、チームの顔ぶれは変わる。それがチームへの愛着を失わせる面もあると思う。
カープには、そんな球団とは全く異なる魅力がある。若い選手が頭角を現し、我慢して試合に使ってもらい、育っていく。そういった選手たちが、巨大戦力に挑んでいく。そこが人を引きつける。
16日に開幕するセ・リーグCSファイナルSで、カープは巨人と激突する。“持てる者”に対し、“持たざる者”がどんな戦いを見せてくれるのか。楽しみで仕方がない。
(デイリースポーツ・足立行康)