黒田男気1勝!2740日ぶり凱旋星
「広島2-1ヤクルト」(29日、マツダ)
広島の街が歓喜で揺れた。8年ぶりに広島に復帰した黒田博樹投手(40)が今季初登板で、日本球界では2007年9月以来、2740日ぶりの白星を挙げた。宝刀ツーシームを軸に、7回を5安打無失点。スタンドから「お帰り」コールが響く中、ヒーローインタビューに涙するファンの姿もあった。歴史的な勝利に、男気右腕は「すごく大きな1勝。真っ赤な球場を見て、すごくうれしかった」と感慨に浸った。
試合終了の瞬間はロッカールームにいた。「勝利を信じて」モニター観戦。黒田は試合終了を確認すると、ベンチで待つ緒方監督の元に走った。「遅いよ」と笑われながら、2人で熱く抱擁。そのままお立ち台に上がる。「広島のマウンドは最高でした」。7回を5安打無失点。日本球界で2740日ぶりの勝利だった。
13時25分。「お帰り黒田」のコールを受けながら、ゆっくりとマウンドに上がった。球場にはB´zが特別に書き下ろした登場曲「RED」が流れる。3万1540人。真っ赤に染まったスタンドが揺れる。初球。先頭の山田に選んだのは、代名詞のツーシームだ。
ファウルを奪うと2球目、外のスプリットで三ゴロに。2死からミレッジに中前打を許したが、続く雄平を再び“宝刀”で見逃し三振に抑えた。07年9月27日。何の因果か海を渡る前、ラスト登板もヤクルト戦だった。「いろいろ考えることが、たくさんありましたね」。交差する感情を胸に打者に向かった。
「自分で辞めることができる、決断できる選手は限られている。どこかで区切りを付けないと」。日本中を、世界中を驚かせたカープ復帰。黒田は終着点を探していた。引退か、続行か。残留か、復帰か。日々心は揺れた。「残された球数は限られている」。最後の1球を投げるために、悩んだ末に出した答えが、8年ぶりの凱旋だった。
二回以降も粘りながら、迎えた七回2死一塁。中村に対してフルカウントからの7球目、外角のボールからストライクに入る、通称「バックドア」で見逃し三振に斬った。「展開的にも苦しい場面だった。最後、目いっぱいの1球を投げたつもりです」。強く拳を握り、熱く雄たけびを上げる。96球。「1球の重み」をマウンドで体現した。
「簡単な言葉ではたたえられない」。復帰までの苦悩、復帰後の努力を知る緒方監督は、言葉を選ぶように話した。「彼がこのマウンドに立つために、どれだけのプレッシャーを背負ってきたか。その中で最高の結果を出してくれた」。歴史的1勝に声は震えていた。
ヒーローインタビューを終えると、黒田はライトスタンドに向かった。笑顔の人、涙を流す人。歩きながら歓声を浴び「複雑な感じ。引退するのかなって」と笑った。まだ1試合目。覚悟と責任を持って戦う。「体が続く限りチームのために投げたい」。24年ぶりの悲願へ。最後の挑戦はまだ始まったばかりだ。