黒田伝える「ANY TIME OK」
「広島3-1DeNA」(26日、マツダスタジアム)
広島・黒田博樹投手(41)が7回で9安打を浴びながら1失点の粘投。レジェンド右腕の力投に呼応するように、打線も六回に4本の安打を集中させて逆転し、チーム一丸となって今季初勝利をつかみ取った。黒田は節目の200勝まで残り6勝とした。
プロ20年目、黒田が積み上げた194勝の裏に、いつもファンの存在があった。FA残留した2006年、電撃復帰を決めた昨年。「広島に僕を待ってくれている人がいる」と言った。昨オフ、現役続行を決めた理由も、そうだ。
宮崎日南キャンプから合流した2月中旬。練習が終わると、時間の許す限り即席サイン会を開いた。沖縄移動後も黙々とペンを走らせた。涙するファンもいた。「ANY TIME OK(いつでも大丈夫だ)」。1人の男との出会いが、感謝の思いを強くさせた。
「サインすることで、人生が変わったっていう人が、本当にいたりする。ヤンキースで、その意識は強くなったと思う。ジーターがよく言っていたから」
米大リーグ・ヤンキースに移籍した12年、デレク・ジーターのファンへの思いに衝撃を受けた。ジーターは試合前、ロッカールーム横に山積みされた色紙に1枚、1枚、サインを書いていた。遠征先では移動のバスにいったん乗り込んでコーヒーと荷物を置くと、再び外に出て出発直前までペンを走らせた。「いつでも-」。英雄の言葉が耳に残る。
黒田が若手時代、スタンドは空席が目立った。近年は連日満員。だが、それは「当たり前じゃない」と言う。「次世代のためにもね。口で言っても伝わらない。サインをすることで何かを感じて欲しい」。自分がそうだったように、若い選手には背中で伝える。「ANY TIME OK」-と。(広島担当・田中政行)