「神ってる」誠也、進化の神髄に迫る
誠也“覚誠”-。広島の鈴木誠也外野手(21)が赤丸急上昇中だ。17日からのオリックス3連戦(マツダ)では、2本のサヨナラアーチを含む3戦連発決勝弾を記録。交流戦16試合の出場で打率・381、4本塁打、13打点と強烈なインパクトを残し、チームの快進撃を支えている。プロ4年目、21歳。進化の裏側に迫った。
広島でいま「神ってる」と言えば鈴木誠也。その素質は誰も疑わない。「何を投げても打たれる感じがした。凡打でも全部、芯で捉えられてましたから」。オリックスの捕手、若月が振り返る。比嘉、平野で喫した2戦連続の決勝弾。マスク越しに衝撃を見た男は、素直に力を認めた。
序章は5打数5安打で、サヨナラ勝ちに貢献した5日のソフトバンク戦。九回の左翼フェンス直撃二塁打はあと30センチでフェンスオーバー、サイクル安打達成という打球だった。
ソフトバンク・内川を打撃の師と仰ぎ、自主トレに志願参加。内川はその技術、探求心に驚く。「今は新聞で読む限りですし、僕は知らないことの方が多いですが…」と前置きした上で、自主トレの一端を明かした。
「『確率を下げて、力ずくで振って打球を飛ばすのではなく、確率を下げずに、どう体を使ってインパクトするか』という話はしました。僕のところになぜ来たのかと聞いた時、バットの使い方、確実性を身につけたい、ということでしたので。僕が打っている時に、気持ち悪いぐらい見ていました。周りから見ても明らかに違う、というものを持っているんだと思いますね」
飛距離と確実性。7年連続3割打者の考えは、石井打撃コーチの理論にも通ずる。「いい選手は波が少ない。まだ成長過程」。さらなるレベルアップを求めるが「打席での立ち方が変わってきた」と言う。「静かに立てるようになった。最初から最後まで力を入れるのではなく、インパクトの瞬間に100の力を出す」。ストライクゾーンの見極めの徹底や、ヘッドが利くようになったなどの要素もある。その中で、打席での雰囲気に変化を感じていた。
特筆すべきは2ストライク後の数字。67打数23安打、打率・343。さらに10本の本塁打の6本が追い込まれてからだ。コース別の打撃成績を見れば内角高めが・167、同中が・353、同低めが・400の打率。昨季は同・071、・276、・500。「この1、2カ月で1ランク、2ランクアップした」と話す東出打撃コーチは、左手と軸足の使い方に、内角球への対応の秘密があると言う。
「『左腕を使わない』使い方を覚え始めた。左腕でリードするのではなく、バットが体の中心から離れないから、ボールを長く見られるし、低めのボール球も振らない。軸足で間が取れるようになった」
ティー打撃、ネクストバッターズサークルでも右手を左腕に添え、脇が開かないスイングを徹底する。鈴木は「少しずつ良くなっているけど、まだ完全に習得できていない」と求めるものは高い。だが内角球への対応が“追い込まれても追い込まれない”という強みになっている。
探求心に技術が加わり、今なお急成長を続ける。今季、緒方監督が掲げたのは、走攻守で攻める-広島の伝統野球復活。石井コーチは言う。「現役時代の監督のようにね。安打が打てて長打もある。塁に出たら盗塁ができる。求めるのは走攻守。まだまだ伸びしろは無限にある」。カープの象徴、申し子となるべき21歳は、飽くなき高みを目指している。(※データはスタッツ・ジャパン提供)