メモリアル勝利で見た“暗黒時代”から培った黒田と新井の深い絆

 記念レリーフを受け取った黒田は、ベンチに戻る新井を呼び止めた。「200WINS」。誇らしげに2人で頭上に掲げ、黒田はこの日一番の笑顔を見せた。新井は「自分の2000本(安打)よりうれしかった」と言った。黒田と新井。この光景に2人の絆を見た。

 7月23日の阪神戦(マツダ)。王手を懸けてから3度目の挑戦で、黒田は7回を5安打無失点の好投を見せた。史上26人目、日米通算では野茂氏に次ぐ2人目の快挙。歓喜に湧く球場には涙する人の姿もあった。「自分自身、感動しています」。ヒーローインタビューで黒田は、少し興奮気味に声を張った。

 出会いは新井がドラフト6位で入団した1999年シーズン。黒田は「デカいな…と思った」と初対面の印象を語る。投手と野手。接点は多くない中、仲を深めたのは2003、04年。山本浩二監督(当時)の下、エースと4番として投打の柱を託された。黒田が静かに当時を振り返る。

 「あの年は2人で結構、参っていた時期も多かったですね。ちょっとお互いに、自分自身も勝てなくて、新井も全然打てなくてヤジも飛ばされて、という時があった。そのころから、置かれた立場的も同じような境遇。そういう部分で親近感というのは、あったのかもしれないですね」

 慰め、励まし合うように、2人で頻繁に飲みにも出掛けた。「その時は結構、飲んだのは覚えています」と、懐かしんでほほ笑む。選手会長も務めていた黒田は新井と、ファンサービスの方法も話し合った。観客が1万人を割ることも珍しくなかった時代だ。「特に2000年台前半とかは市民球場のお客さんが入らない中で、ずっとお互いプレーしてきましたからね」。黒田、新井がグラウンドで見せる必死な姿、勝利への執念の背景には、当時の記憶がある。勝つことに飢えていた。

 2人の8年ぶり復帰を実現させた鈴木球団本部長は言う。「よく言われる“暗黒時代”でチームの中心。新井と2人、一番成績がいい時に悪い方の条件を飲んでくれた」。口を開けば常に、勝つための方法だった。そんな姿が若いチームの中、精神的な支柱になると確信があったという。

 「当時とは違う。球団の財力、環境も変わって堂々と争える環境を整えたぞ、という思いはあった。迎え入れる環境がようやく整ったのが昨年、一昨年。もう一つ、上に行きたいと考える中で、若いチームに柱、核が必要だと痛切に感じていた。新井にしてもそうだし、2人に支えてほしい、と。彼らがいたらチームが変わる、ずっとその思いはあった」

 予想通りにチームは変わった。黒田、新井の背中に「毎日、学ばせてもらっている」と菊池は言う。勝ってほしい、打ってほしい-という思いは、首位独走の大きな要因となった。「節目の記録のタイミングで、チーム全体として盛り上げるムードを作れている。自分の力だけじゃなく周りの力と、いい相乗効果」とは緒方監督。石井打撃コーチも「この位置にいるのは新井と黒田、この2人の存在がとても大きい。若い選手に背中で示してくれている。(打撃コーチで黒田とは)担当部門は違うけど本当に感謝しています」と、投打の両輪に最敬礼だ。

 広島での優勝経験は、まだない。昨季、時を同じくして8年ぶりに戻ってきた2人。新井は言う。「黒田さんも僕も、負けん気があるんだと思います。中央に負けるか、巨人には負けんぞ、と。みとけよ、広島の小さな町かもしれないけど、人気球団には負けないぞという負けん気。だからこそ誇りを持っていますよね。広島という町に、チームに」。2人の夢は、渇望は届くだろうか。反骨心が生んだ200勝と、2000安打。その先に25年ぶりのリーグ優勝が待っている。(デイリースポーツ・田中政行)

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