韓国野球が国際大会で強い理由とは

 プレミア12は「国全体の野球力、野球国力」のナンバーワンを決める大会だったらしい。はたして「野球国力」というものがなにを意味するものなのか。ただ単にU15から各年代層の成績による世界ランキングの合計のことなのか。それともより深い意味が込められているのか、筆者にはサッパリわからない。しかし畏れ多くも「国力」と謳う限りは、競技者人口や球場などの環境、ひいては観る者の野球に対する意識、報道する立場の姿勢も当然、加味されてしかるべきだ。

 その点、日本が準決勝で敗退し、進出しなかった韓国対米国の決勝戦が、地上波局は録画、それも深夜3時45分から5時までのダイジェスト放送となった。視聴者無視とは言い過ぎだろうか。野球国力を自負する日本としてはいかがなものだったか。

 それはさておき。

 今大会、日本は敗れた。優勝は韓国。選手レベルでは決して力量差があるわけではない隣国だが、チーム編成に於いてはいくつかの違いがある。その最たるものが、「選手選考の基準」だ。どの国でもそのシーズンに好成績を残した選手、その国を代表するレベルの選手をピックアップしていくのは当然だが、こと韓国には「国際大会用」という表現があるほど、他国との短期決戦に適応出来る選手がいる。そしてそうした選手を重用する。

 今大会でいえば、打者では1、2番を打ったチョン・グンウ二塁手、イ・ヨンギュ外野手などだ。彼らは08年の北京五輪時から代表となり、09年のWBCあたりでは“テッパン”の1、2番となった。彼らの持ち味は、データがほとんどない他国の投手相手でも、ためらわずに初球からどんどん打ちにいける積極性にある。プレーボールがかかり球場がまだ落ち着かない初球を、思い切って振りに来る。

 今大会でも同様の場面がいくつもあった。早打ちの是非はあるだろうが、はまれば瞬時に流れを引き寄せる。イ・ヨンギュはセーフティー、あるいはドラッグバントでの投手の揺さぶりを得意としている。積極さと言えば簡単だが、相手がどんな投手かわからない国際大会では頼もしい。

 投手では今大会、抑えの前に出た長身のアンダーハンドのチョン・デヒョン。球速は130キロ程度だが、ほとんどがスライダーかシンカーという変則派。彼は大学時代の世界選手権で米国相手に完封して以来、韓国代表の常連となった。日本戦ではあまり馴染みがないが、米国や中米の打者には特異な投手ゆえ絶対的な戦力になってきた。いうなれば「アメリカ、中米用選手」だ。

 対日本としては左投手。これは以前の日本代表の打者に左が多かった頃のイメージが強いためだが、北京五輪でキム・グァンヒョン、09年のWBCではポン・チュングンと左をぶつけて結果を出してきた。そうした根拠のもとに「日本戦では左投手を」という考え方があったのだ。

 ジンクスめいたものと片付けることも出来るが、韓国代表を選抜する要職者たちにはそうした思考が底流にある。言い換えれば、誰が選ぶにせよぶれない、選手としての明確な個性があるということ。そしてなにより、国際大会がいかなるものなのかという認識を、歴代の監督、あるいは関係者がずっと受け継いでいるということだ。

 どんな選手を選ぶかがわかっていて、そうした選手を起用する。自ずと大会での戦術も定まる。韓国が国際大会で強いのは、なにも兵役免除の恩恵といった「メリット」があるからなのではない。

 ただ今大会あたり、韓国メディアを中心に指摘され始めたのが選手の新陳代謝の少なさだ。若い選手が台頭しても、肝になる国際大会用の選手が6年前、7年前から変わらないのは問題だと。

 また、韓国はもうひとつの課題に迫られている。代表監督の専任問題だ。WBC開始後、韓国は日本より早く代表監督の選出方法に基準を設けた。「プロ野球リーグの前年の優勝チームの監督を代表監督に据える」という完結、明瞭なルールだった。

 しかし13年のWBC以後、この規定が撤廃された。サムスンが11年から4連覇し、同一監督が代表を毎回引き受ける、想定していなかった状態に至ったためだ。10月末の韓国シリーズ出場を考慮すると、その後の国際大会への準備期間も足りない。そうした理由から、今回のプレミア12も現職監督ではないキム・インシク氏(KBOの技術委員長)を担ぎ出す結果となった。06年、09年のWBCで指揮を振るっただけに適任ではあったが、とはいえいつまでも彼に頼るわけにもいかない。

 そこで今後は、改めて国際大会の専任監督を設けるべきという気運が、メディアを中心に広がっている。侍ジャパンの監督常設は、隣国にも少なからず影響を与えているとも思える。いずれにせよこれだけ国際大会に腐心する国や地域は、日本と他韓国、台湾くらいのもの。力量があるとはいえ、これらのチームが常に優勝争いに絡んでくるのは、こうした点を踏まえると、いわば必然といえる気がする。

 次に待つ大規模な国際大会は1年4カ月後の第4回WBC。そのとき韓国は、どんなチームとしてジャパンの前に立っていることだろう。

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