韓国球界で不祥事が連鎖する理由 八百長、賭博、公然わいせつ…
韓国プロ野球界で、八百長事件が明らかになった。今季2位と好調のNCダイノスは、7月20日、同チーム所属の李テヤン投手(23歳)が八百長に関与していたとして地元の昌原地検特捜部から召喚を受け、起訴されることが決まった。それを受けて同球団はKBO(韓国野球委員会)に契約解除を要請した。容疑は昨季、4回にわたる「故意による四球」だという。そのうち2回は“失敗”したが、2回は失点に繋がり、結果として八百長を持ちかけたブローカーから2千万ウォン(約200万円)を受け取ったとされる。
李テヤンは昨季、10勝5敗で外国人投手に頼る先発陣の中、奮闘した右サイドハンドだった。オフのプレミア12にも出場している。
また同投手に話を持ちかけた選手も摘発された。ネクセンヒーローズ所属で、現在は兵役に就いている文ウラム外野手(23歳)。同外野手は容疑を否認しており処分は決まっていないが、KBOからは参加資格の停止措置が執られた。韓国では2012年にも当時、LGツインズの選手により八百長が発覚し、永久除名処分を受けている(法的にはそれぞれ懲役6カ月・執行猶予2年の判決だった)。
不祥事はこれに留まらない。21日には、サムスンライオンズの安志晩投手が、インターネット賭博に関与していた疑いで検察から事情聴取を受けていることが伝えられた。単に金をかけていたのではなく、資金提供して「賭博開帳」していた疑いなのだという。本人は一部否認しているが、サムスンは解雇を決めた。安志晩は昨季にも、オフにマカオで数千万円レベルの金額をかけていた賭博問題で外為法ほかいくつもの罪に問われていた。今回のインターネット賭博についても、継続聴取の過程で出てきたものと見られる。
韓国の場合はインターネットでの不法賭博が日本以上に横行しており、選手のみならず一般でも、いわば気軽に賭けが出来る。ただ賭ける立場と、資金提供して開帳する立場では、意味が違う。とくに韓国では「国民体育振興法」という法律があり、いわば「スポーツを通じて健康な身体と健全な精神を育成していく」とでもいうような趣旨の法律があるのだ。言い換えればプロ野球選手という特別な立場は、八百長であれ、賭博であれ、国民体育振興を妨げた存在として罪に問われる形になる。
にもかかわらず、近年は不祥事が多発している。飲酒運転も数件あったが、それを別にしてもKtウィズの選手がSNSで交際女性のプライバシーを侵害するような書き込みをしてゴシップ話題を提供し、50試合の出場停止となった。7月初旬にも同じくKtのベテラン内野手が公然わいせつ罪で在宅起訴。KBOは翌日、任意脱退の勧告をした。
韓国内では、こうした不祥事の連鎖について、識者の一般的な指摘はこうだ。曰く「韓国のプロスポーツ選手は、子供の頃から運動だけしてきた、良くも悪くもエリート。そのため社会性に欠如し、道徳的規範に欠けているのだ」と。その真偽は、日本人の筆者が言及する立場にはない。
ただ近年、明らかに感じることがある。それはプロ野球選手たちの「プロ意識の緩み」だ。08年の北京五輪金メダル獲得以降、韓国内におけるプロ野球人気の向上、定着は目を見張るものがある。かつてプロ野球といえばサラリーマン族のストレス発散の場だったが、今では若い女子が2人、3人でスタンドに陣取り、レプリカユニフォームを着てビールを飲み、スマホで自撮りを楽しむ。そんな光景が当たり前になった。リーグ全体の観客動員も、右肩上がり。そして何より選手の年俸も上昇している。
今季、KBOが公表した韓国リーグでの最高年俸は、金泰均(キム・テギュン=元千葉ロッテ)の16億ウォン(約1億6000万円)。以下、30名までが5億ウォン(約5000万円)クラスとなった。1軍レベルの平均は約2億ウォン(約2000万円)。これには外国人選手が含まれないから、実際の平均は上がる。無論、2軍や新人なども含めれば金額は変わるし、金額が上がっていると言っても、そこは日本と同様、一部のトップ選手に限られてはいる。ただそうしたことを含めつつも、やはり現場の空気に触れるにつけ「選手は豊かになった」と感じ、同時に、かつてのギラギラしたどん欲さも薄れたように思う。これは筆者の主観だが、意を同じくする韓国の球界関係者も少なくない。
あるチーム関係者は言っていた。
「今の若い選手たちは、以前の世代が必死になってプレーし、今の時代を作ってきたことを自覚していない。まるで自分たちだけで今の人気を押し上げたと錯覚している。そのいい例が、サインです。以前なら5人、10人しかいないファンだからこそ、大事にサインしていた。でも今の選手になると、たったひとりのファンにでも、面倒がってサインしない選手も増えました」
急速な環境の変化が、選手たちをある意味で勘違いさせ、プロ意識というものを見誤らせている。そんな気がしてならない。八百長や賭博事件の続く中、韓国のプロ野球はこのまま人気を維持し続けていけるのかどうか。