父の日に、男になった。阪神・片岡篤史内野手(33)が延長熱闘にケリをつけるサヨナラ打だ。0―0の緊迫ゲームは10イニングを数え、5万3千人の観衆はだれ1人として動けない。貯金を「22」に戻した。2位・巨人との差は再び9・5ゲーム。いやはや、シビれました!
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巨 人 |
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阪 神 |
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1× |
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勝:久保田1勝
S:− |
本塁打:− |
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握り締めた左右のこぶしを天に向かって突き出した。とびっきりの笑顔を浮かべて、一塁ベースを回った片岡のもとに、次々とナインが駆け寄った。何度も頭を叩かれ、何人かと抱き合った。歓喜の輪に身を任せる心地良さに、ヒーローはしばし浸り切った。
0―0で迎えた延長十回、二死一、二塁。「球種とかは考えずに、気持ちで負けずにいこうと思った」。前田がカウント2―2から投じた外寄りの速球をはじき返す。今季2度目のサヨナラ勝利を決める打球は、歓声に包まれながら深々と左中間を抜けていった。
「下柳さんも安藤も、久保田も緊張した場面でいいピッチングをしていた。早く点を取りたくてモヤモヤしてたけど、最後にいい形で出てくれた」
お立ち台に上がった片岡は、一言一言をかみしめるように言葉を連ねた。自身4本目のサヨナラ打だ。下柳が六回終了までG打線をパーフェクトに抑える好投。後を継いだ安藤、久保田も力投した。だが、初回二死一、二塁、八回二死二、三塁のチャンスで片岡は凡退した。踏ん張り続ける投手陣に応えたいという思いが、最後の最後でバットに伝わった。
期するものがあった。この日は「父の日」。昨年11月に長男・大空(だいすけ)君を授かったばかりの片岡は、一児のパパとして、そしてずっと温かく見守ってくれている父・寛十郎さん(63)への感謝の証として、心ひそかに快打を求めていた。
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うれしいプロ初勝利!新星・久保田は星野監督とがっちり握手 |
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「父親には小さいころから野球を教わってきたし…。子供にも『初めての父の日で打ったんやで』と話せるんちゃうかな」
一昨年のオフにFA宣言して阪神移籍か日本ハム残留かで揺れ動いた際には、父に助言を求めたことがある。決断して新天地に飛び込んだが、苦しみ抜いた昨季に生まれた我が子には日々、新たな活力を与えてもらっている。
「本当に良かった。うれしかったです、きょうは」。一度グラウンドに出れば、戦いの本能が先に立つ。だが、いつも片岡の心には、支えてくれている家族の存在がある。だから、このサヨナラ打を捧げたかった。素直に喜びたかった。
今季延長戦を初めて制し、巨人とのゲーム差も再び「9・5」に広がった。「とにかく一戦一戦、戦っていきたい」。浜中が戦線離脱し、そのバットにはこれまで以上の期待が掛かる。片岡はいま、虎を支えるかけがえのない「大黒柱」である。(岡本浩孝)
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