体操ニッポン 11年ぶり世界一!
「体操世界選手権・第6日」(28日、グラスゴー)
男子団体総合決勝が行われ、日本(内村、田中、加藤、早坂、白井、萱)は6種目合計270・818点で、世界選手権では78年ストラスブール大会以来、37年ぶり6度目の優勝を果たした。五輪を含めた団体金メダルは04年アテネ五輪以来。最終種目の鉄棒でエース内村航平(26)=コナミスポーツクラブ=が落下するまさかのミスも出たが、地元英国や7連覇を狙った中国を何とか振り切り、16年リオデジャネイロ五輪に向け、弾みをつけた。
ジェットコースターのような目まぐるしい終盤の展開が、あの“栄光の架け橋”04年アテネ五輪以来の戴冠の感動を、より際立たせた。最終種目の鉄棒を終えた内村は、じっと得点表示を待つ。白井は祈りながらつぶやいた。「お願い、お願い」。そして、誰かが言った。「頼む!」-。
優勝が決まる得点が表示される。勝った!ホッとしたように拳を握った内村を中心に、歓喜の輪ができた。昨年は宿敵中国を相手に、あと0・1点に泣いた。内村にとっては、08年北京五輪から6度目の正直。どうしてもつかめなかった頂点に体操ニッポンが返り咲いた。
ドラマは楽勝ムードの終盤に待っていた。宿敵中国に4点差以上をつけて迎えた5種目目の平行棒で田中が落下。続く最終種目の鉄棒でも田中が再び落下した。予断を許さない状況となった中、内村が演技を始めたその時、地元英国が中国を抜いたことで会場を大歓声が包み込んだ。するとここまで完ぺきな演技を続けてきた内村まで、G難度離れ技の「カッシーナ」で落下。一度は声を失った日本の選手たち。それでも最後は日本が、信じ貫き続けてきた「美しい体操」が救ってくれた。
技の出来栄えを示すEスコア(実施点)で、内村は落下のなかった中国選手を上回る7・966点をマーク。減点を最小限にとどめた。内村は「日本の美しい体操を評価してもらった」。演技自体の完成度の高さが、覇権奪還につながった。計18演技で大きなミスがなかった2位英国、落下を一つで食い止めた3位中国に対し、日本は3度の落下を犯した。それでも表彰台の真ん中に立てた要因は、Eスコアの高さだ。
象徴的だったのは、落下した田中と内村の演技だった。Eスコアは10点満点から、着地の乱れや演技のブレなどで減点されていく。落下は1点の減点と最も大きい。それでも、田中は平行棒でEスコアを8点台に乗せていた。
平均年齢21・5歳と若さあふれる「体操ニッポン」。選手たちの原点には、04年アテネ五輪“栄光の架け橋”の鮮烈な記憶がある。「伸身の新月面が描く放物線は、栄光の架け橋だ!」の実況とともに最後の鉄棒で冨田洋之さんが完璧に着地を決める。感動のシーンを、当時高校1年生だった内村は、テレビに食いついて見ていた。「日本の体操が一番きれいだった。きれいな体操が勝つんだと思った」-。
今大会、白井とともに代表最年少で出場し、得意のあん馬で貢献した萱も、アテネをきっかけに体操を始めた。当時は小学生。「これをやりたい」。それまで柔道、剣道、ピアノ…。母恵子さん(47)が何を見せても興味を示さなかった少年の体操人生は、あの日から始まった。
「僕はアテネで衝撃を受け、ここでようやく金メダルが取れた。東京(五輪)世代の子も衝撃を受けたと思う」と、内村。11年ぶりの戴冠劇は、また新たな世代へと、バトンが繋がれた瞬間だった。
ただ、最後にビシッと決めきれなかったことだけが悔しい。内村は「ミスしてしまったので、勝てなくてもしょうがないと思ってた。これが団体で勝ち慣れていないところかな。団体金をようやく獲ることができたんですけど、内容が伴ってないといけない」と、勝ってなお自分を戒めた。
今でも冨田さんのアテネの演技を見ることがあるという内村は、心に誓っていることがある。「あれを俺がやらなきゃいけないんだなって思います。あの時の冨田さん以上の演技をやらないといけない」。視線の先には16年リオデジャネイロ五輪の舞台。内村が最高に格好いい着地を決めた時、体操ニッポンは真の復活を果たす。