内村が「リ・シャオペン」を跳べる理由

 体操の内村航平(27)=コナミスポーツ=が、五輪の団体金メダルに向け、跳馬の大技「リ・シャオペン」を習得した。世界でもほとんど跳ぶ選手がいないほど難しいとされる技を、内村はなぜ跳べるのか。スポーツバイオメカニクス(運動力学)が専門で、日本体操協会のマルチサポート委員会研究部副部長を務める金沢大の山田哲准教授(45)に動作解析を依頼し、その秘密を探った。ポイントはひねりの速さと空中感覚だった。

 跳馬では、器具から手が離れる瞬間から着地までを第2空中局面と呼んでいる。リ・シャオペンは、この間に縦回転で1回半、横回転(ひねり)で2回転半を同時にしなければならない。内村が第2空中局面で要する時間は0・96秒で、最高到達点は足先が3・3メートル、頭は3・22メートルだった。

 一方の李小鵬(リ・シャオペン)は、1・03秒~1・04秒で着地。最高到達点では李小鵬が体の重心比較で0・18メートル高いことが、山田准教授による動作解析で分かった。高さ(滞空時間)があれば、それだけ回転にもひねりにも余裕が生まれる。では高さで劣る内村は、何で補っているのか。それが回転の速さなのだ。

 内村はひねりで、体の幅くらい狭い筒を通り抜けるイメージを浮かべているという。手や足が体に巻き付くように締めた姿勢を、山田准教授はポイントに挙げた。フィギュアスケートと同じ原理で、腕が胴体から離れれば回転スピードは落ちる。

 ひねりは、腕を体により近づけることで加速する。「体の中心に、手とか足とか体全体をぎゅーっと近づけるイメージですね。あと、体が反ると中心軸からぶれるので、できるだけ真っすぐの姿勢がいい」と山田准教授は言う。

 内村は、1秒足らずの間に2回転半(900度)ひねっている。ひねりの回転速度は平均で毎秒900度を超すが、瞬間的には、毎秒3回転以上のスピードとなっている可能性が高い。 ぎりぎりまで

 さらに李小鵬と比べ、内村の着地直前の姿勢は頭が大きく下がっているという。ほかの選手が体の前に引きつけた両腕をほどき、着地する準備を始めるタイミングより、内村は高速で体を回しながらも、ぎりぎりまで演技を続けることができる。

 山田准教授は、李小鵬と比べ短い時間で同じ回転をしている内村は「ひねりのつくり方がものすごくうまい」と指摘。この高速回転の秘密は、踏み切り板から跳馬に手をつくまでの動き(第1空中局面と呼ぶ)を、そのまま流れるように、第2空中局面での回転やひねりの速さに変換できること。ほかの選手が跳べないのは「前半の入りができないから、大切な第2空中局面をつくれない」と結論づけた。

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