女優・片岡礼子、三浦大輔の舞台に挑戦

 映画「愛の渦」で映画界に刺激を与えた三浦大輔監督が本業の舞台に戻り、東京・パルコ劇場で「母に欲す」を上演中だ。主演はいずれも三浦監督の映画でコンビを組んだロックバンド「銀杏BOYZ」の峯田和伸(映画「ボーイズ・オン・ザ・ラン」主演)と池松壮亮(映画「愛の渦」主演)。それだけでも映画ファンにとってはワクワクしてしまうのだが、さらに映画『ハッシュ!』(01年)でブルーリボン賞主演女優賞など同年の映画賞を総ナメにした片岡礼子も参戦だ。個人的に彼女との付き合いは20年以上に及ぶだけに、初日を観劇した筆者は感激しきりなのである。

 片岡との出会いは1993年。ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」が上演されていた今はなき大阪・近鉄劇場で、映画版の前売観賞券を販売に行っていた東映・宣伝部のO女子から「隣の物販コーナーで、映画『二十歳の微熱』に出演したという女優さんがいる」と話を聞いた。同作は橋口亮輔監督の劇場デビュー作で、当時としては珍しい同性愛をテーマにした野心作だ。そんな作品に挑んだ女優とはどんな人なのかと、早速取材を申し込んだ。それが片岡だった。

 当時、彼女はまだ駆け出しで“アンダースタディ”として出演者がケガなどで舞台に立てない時のための補欠として公演に同行していたという。物販コーナーにいたのは、たまたま手伝っていただけだったというから、出会いというものは分からない。「いまだに『~セーラームーン』の主題歌が流れてくると、懐かしいですもん」(片岡)。

 以来、公私ともに連絡を取り合うようになったのだが、前述した「ハッシュ!」で彼女への注目度が高まり、女優としてこれから!という時に事件が起こった。脳出血で倒れて休養を余儀なくされたのだ。出演予定だった、河瀬直美監督の映画「沙羅双樹」も、松田優作十三回忌追善公演舞台「MAZDA2∞2+2+『SUGIN』」も降板した。すでに舞台チケットを購入していた筆者は、複雑な思いで劇場に足を運んだことを覚えている。以来、本人も「(多くの方に迷惑をかけ)舞台に立ってはいけないんじゃないか」という気持ちを引きずっていたという。

 その後3人の子を持つ母となり、できる範囲で女優の仕事を続けつつも、故郷・愛媛で子育て中心の生活を送っていたこともある。だが再び拠点を東京に移し、昨年11月、劇団江戸間十畳Vol.3「明日は天気になる」で久々に舞台へ。続いて今年3月、宮沢章夫作・演出の「ヒネミの商人」に出演し、その舞台を観た三浦から、今回の「母に欲す」のオファーを受けた。「宮沢さんには本稽古前の自主稽古から3カ月みっちり、舞台や宮沢さんの演出に慣れてないところを鍛えてもらいました。その生活が一気になくなるのは想像できない…と思っていた矢先にコレ!その時の熱を、ずっと持続させて頂いている感じですよ」(片岡)。

 舞台「母に欲す」は、母親を亡くした一家に、父親がすぐに再婚相手を連れてきたことから巻き起こる一見フツーのホームドラマだ。だが、俗世界からおぞましい程の人間の本質をあぶり出す鬼才・三浦の作品がフツーで終わるはずがない。亡き母への愛情やら悔恨を、再婚相手役の片岡を通して描いていくという、非常に緻密な会話と、練られた演出で魅せてくれる。

 「映画と違って、日々芝居が変化していくことに慣れてないので最初はドキドキしていたけど、舞台を日々より良いものにするために、役者の動きを見た三浦さんが、練って考えて、それを(台本に)付け足していく作業は、一緒にモノを作っていくという感覚があって凄く魅力的」(片岡)

 映画「鬼火」(97年)や「黒の天使」シリーズなどに出演していた頃は、緊張のあまり本番前に嘔吐(おうと)していたこともあったという。その全力投球ぶりが多くの監督たちに愛される理由でもあったのだが、しかし経験を重ねた今は、意図的に力を抜くことを覚えて来たという。家事と仕事の両立もこなせているようだ。「ただ、いろんな所でモノがなくなってますけどね(笑)。正直、それくらい舞台以外の他のところは気もそぞろ。家族にはゴメンだけど、人間は挑む時があるんだよ!と思ってもらえたら」。

 そんな片岡の印象について、三浦は「全身全霊で演じる人」だという。人生の粋も甘いもすべて糧にして、たくましくステージに立つ片岡の姿に女優魂を見た。

 舞台「母に欲す」は7月29日まで東京・パルコ劇場で、8月2日~3日は大阪・森ノ宮ピロティホールで上演される。

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