勘三郎追善興行に新派女優である私は…

 「お姉ちゃま! 新派でも追善やろうよ」

 来月から2カ月続けて追善興行があります。10月は歌舞伎座で歌舞伎公演、11月は新橋演舞場で新派公演として。十七、十八代目中村勘三郎の追善。つまり、私の父の二十七回忌と弟の三回忌です。歌舞伎と新派の両方で、さらには2カ月連続で追善興行をするのは初めてだそうです。

 …でも。ある明け方のこと、ドアをドンドン叩く音をいまでも鮮明に覚えています。弟が飛び込んでくると息せき切って、「新派でも親父の追善を」と。父は新派公演にも出ていたし、自分の息子たちにも新派を経験させたかったみたいです。そして何より、父が溺愛していた私のことを気遣ってくれたんですね。姉の私は新派女優ですから、歌舞伎の追善には出られません。それなら私のいる新派でも、と。本当に優しい人です。

 あ、でもね。弟はやると決めたら、最高のものを揃えないと気が済まないから、演目だって、出演者だって、妥協は絶対しない。新派でどんな追善にするのかを話し出すと、「あれはいい話だよね」とか「あいつに出てほしい」とか。どんどんアイデアの出てくる、アイデアマン。そして、それを実行に移すだけの熱意が半端じゃない、本気の人。

 11月に上演する『京舞』は父がやりたくてしょうがなかった曰くのあるのものだし、『鶴八鶴次郎』は父も弟もやっているものを今回は勘九郎、七之助で。弟と話をしていると、とにかく面白くて、わくわくする。生気に満ち溢れている。

 ……弟の追善が加わるなんて。なんだか、ホワンとした気分。でも、そもそも舞台って生身の人間が汗かいて創り上げていくもの。父への想いも、弟への想いも、私の中にいつでもある。いつだってある。

 だから、今回初めて新派に参加する勘九郎、七之助と一緒にいい舞台を創りたいし、新派劇団員や、ゲストの柄本明さん、近藤正臣さんたちといいお芝居にしていきたい。生きている私にできることって、きっとそういうこと。私は役者ですから。そして、いつまでもたぎっていたい。

 皆様、ぜひ劇場へお運びくださいませ。波乃久里子でございました。

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