佐村河内氏 ドキュメント映画公開
“現代のベートーベン”と称されながら、ゴーストライター騒動で世間の大バッシングを受けた佐村河内守氏(52)のその後を知る者は少ない。表舞台から去り、沈黙を貫いてきた佐村河内氏に、2014年9月から今年の年明けまで約1年半にわたって密着したドキュメンタリー映画「FAKE」がきょう4日に公開される。15年ぶりの新作を完成させた森達也監督(60)に、「黒か白かじゃない、もっと間があるはず」と表現する、映画の舞台裏を聞いた。
18年間、自身のゴーストライターを務めていた作曲家の新垣隆氏(45)が、バラエティー番組でタレントの大久保佳代子(45)に壁ドンをしている。佐村河内氏はテレビを見つめながら、一言も発さない。沈黙と、映像の騒がしさの対比をカメラはじっと映し続ける-。映画の一場面だ。
企画の発端は、作家でもある森監督が知人の編集者から佐村河内氏の本の執筆依頼を受けたこと。14年8月のことだ。「興味がなかったし、1回断った」という。
熱烈なオファーを受け、まずは2時間、佐村河内氏の自宅マンションで本人と話をした。遮光カーテンで暗い室内。窓を開けると電車が見える。トレードマークの長髪にサング ラス、指には包帯。「全部が画になるんです。その場で『あなたを映画に撮りたい』と言いました。編集者はあ然としてましたね」
最初は難色を示されたが、森監督の言い方を借りれば「なし崩し的に」撮影をスタート。「感音性難聴」の佐村河内氏は、妻・香さんの手話通訳を介して森監督と対話する。14年3月の会見では難聴であることも疑問視されており、どこかで“ボロ”が出るのではと疑っていると日常会話にすら緊張感が漂う。
劇中では、佐村河内氏が、世の中からウソだと断じられた事柄について反論する場面もあるが、森監督は「黒が逆転して白でした、っていうのは僕の目的じゃない」と明かす。だから、佐村河内氏には「あなたの名誉を回復する気はない。あなたを利用します」と伝えた。
マスコミ試写で口外禁止とされたラスト12分は衝撃的だ。「ウソかホントかなんて、どうでもいい。最後に全部ひっくり返そうと思った」。映画を字幕版で鑑賞した佐村河内氏は「何も言わなかった」という。