【スプリンターズS】カナロアV香港へ
「スプリンターズS・G1」(29日、中山)
短距離界の絶対王者が底力を見せつけた。単勝1・3倍と圧倒的1番人気のロードカナロアが、93‐94年のサクラバクシンオー以来19年ぶり史上2頭目の連覇&G1出走機会5連勝を決めた。安田師は11年カレンチャンから3連覇を達成。今後は香港国際競走(12月8日・シャティン)に直行する可能性が高く、昨年に続く連覇がかかる香港スプリントか、香港マイルで再び世界制圧を狙う。2着には2番人気ハクサンムーンが逃げ粘り、3着には15番人気マヤノリュウジンが奮闘した。
G1出走機会5連勝、19年ぶり史上2頭目の連覇達成など、記録ずくめの勝利。誇り高き“世界の”ロードカナロアの走りにファンの誰もが目を奪われた。だが、岩田に派手なパフォーマンスはない。1着のゴールへ導いた鞍上にあったもの。それは重圧をはねのけ、責任を果たした安堵(あんど)感だけだった。
「ガッツポーズもなかったやろ?ノドもカラカラやった。負けたら引退って決まっていたし、プレッシャーは感じていた。勝てて、次につなげられて本当に良かった」。歴代4位タイのJRAG1・21勝目を挙げた名手は、そう話すと顔をクシャクシャにして笑った。
スタートで後手を踏み他馬に挟まれる格好になったが、鞍上は「二の脚もあるし巻き返しは利く」とパートナーを信じてエスコート。向正面で徐々にポジションを上げ、4角では5番手と先頭が見える位置へ。「直線は頼む!反応してくれって気持ちやった」。右ステッキを抜き、全身で追った。ようやくエンジンがかかったのは急坂を上り切ってから。強じんな末脚を繰り出し、見事に先頭でゴールを射抜いた。
“負ければ引退”が関係者の間で決まったのは、秋初戦のセントウルS2着後だった。陣営は絶対に負けられない戦いと向き合った。暑い時季に弱い馬を、ミストや扇風機で懸命に体調を管理。G1初Vの昨年と同じ馬体重494キロまできっちりと仕上げ、バトンを託した。安田師は「プレッシャーは計り知れなかったが、勝利の喜びも計り知れない」と、11年カレンチャンから続く“厩舎3連覇”に破顔一笑だ。
既に年内引退は決定している。今後について指揮官は「最低1走はします」と話し、連覇がかかる香港スプリントに直行する可能性が高い。岩田も「もうひと花を咲かせたい」と宣言。国内制圧後は再び世界制覇へ‐。短距離王の栄光への道は、いよいよ最終章を迎える。