【高松宮記念】ヴェロシティ外国馬初V
「高松宮記念・G1」(29日、中京)
これがスプリント王国の底力だ。外国馬としては12年ぶりの参戦となった香港のエアロヴェロシティが、ゴール前で日本馬2頭の間をグイッと割って快勝。昨年の香港スプリントを制した7歳馬が、日本の上半期スプリント王決定戦を外国馬として初めて制圧した。
折れない心で全てをはね返した。これこそが王者の生きざま。短距離の“聖地”香港からやってきたエアロヴェロシティが、雨の桶狭間で天下統一を果たした。海外遠征は初めて。16キロ減という馬体重が示す通り、輸送の影響で筋肉は削り取られていた。しかも雨馬場は初体験。さらに状況の悪化した内枠からの発進。だが、チャンプは逆境の中、全てをのみ込んでみせた。
「直線に入って坂を上る手前で苦しい場面がありました。やはり雨が…。もう駄目かなと思いましたが、坂を上り切ってからもうひとつギアが入りました。この馬の本当の強さを、見せてもらった気がします」。好位で流れをつかみ、実質的にレースを支配。渋った馬場にエネルギーを吸い取られながらも、最後は力でねじ伏せたパートナーの頑張りに、パートンはまず敬意を表した。
4コーナーを回ったところでバランスを崩したが、さすがの手綱さばきで懸命にリカバリー。左ステッキを連打して先に抜け出したハクサンムーンに襲いかかり、外から脚を伸ばしたミッキーアイルを封じ込む。気持ちでゴールを引き寄せ、死闘とも言えるバトルにピリオドを打った。
P・オサリバン師の父は89年のジャパンCで、あのオグリキャップと壮絶なたたき合いを演じた末、レコードで勝利をつかんだホーリックスを育てたD・J・オサリバン師。伝説となった一戦に調教助手として来日していたトレーナーは「今夜、父に知らせるつもりです」と笑みを浮かべ、「体は減っていましたが、この一戦に関しては心配ないと思いました。満足以上に満足。この馬の勇気を見せてもらいました」と言葉を弾ませた。
王国の威厳を異国の地でも保った最強スプリンターは今後、ワールドツアーを視野に入れる。「日本に向いていることは分かりましたからね」と指揮官。この秋のスプリンターズSも選択肢のひとつだ。次の負けられない戦いへ。その翼は世界へ。王者の歩みが、止まることはない。