【天皇賞】ヒカリは本物?否定派過半数
「天皇賞(秋)・G1」(11月1日、東京)
今年の秋盾でレースの主導権を握るであろう存在が、毎日王冠の覇者エイシンヒカリ。G1初挑戦とはいえ、自慢のスピードでここまで9戦8勝と素晴らしい戦績を残してきた。87年ニッポーテイオー以来、28年ぶりの逃げ切りVを目指すディープインパクト産駒を東西トレセン関係者はどう見ているのか。「エイシンヒカリの強さは本物か」。東西トレセン関係者に実施した、このアンケートのお題に対し、否定派が55%、肯定派が34%(どちらとも言えないが11%)と前者が上回った。
秋盾での逃げ馬の勝利は91年プレクラスニーが最後。その24年前も、1位入線のメジロマックイーンが他馬の走行妨害で18着に降着しての繰り上がりだった。純粋にハナを切っての逃げ切りは87年ニッポーテイオーまでさかのぼる一戦。武豊も「秋の天皇賞は逃げ馬が苦戦している。そうそう逃げ切れるレースではない」と追い切り後の会見で言及した。
現場のプロの具体的な評価はどうなのか。否定派の大半を占めるのは、陣営も認めるエイシンヒカリの“気性的な危うさ”だ。
「まだムラがある。メンタル的に安定感も感じられず、距離延長はマイナス」(関西厩務員)、「危ない。あのようなタイプは、1度や2度真面目に走ったからと言ってコンスタントに走れる保証はない」(関東騎手)、「自分の形に持ち込めないともろい気がする」(関西騎手)。今回と同舞台だった5走前のアイルランドT(1着)で、直線で外ラチ沿いまで大斜行した“残像”だけでなく、前走時も見られたレース前のイレ込みなどが関係者を懐疑的にさせているのかもしれない。
ほかでは、G1初挑戦となることを含めて“経験値の浅さ”を指摘する声もある。「まだ本当に強い馬とは走っておらず、厳しい展開も経験していない。ラブリーデイの方が強い」(関西助手)、「東京でも勝ってはいるが、レース自体は(3戦3勝の)京都の方が安心して見ていられる」(関西厩務員)。また「自分が主戦だったら、どこかで控える競馬をしたかった」(関西騎手)、「ここまでに控える競馬をしておけば良かったのに」(関西助手)と後続の目標になる不利は大きいとする関係者もいた。
一方、肯定派の声で複数挙がったのは“鞍上込みでの強さ”を認めるもの。「前に行って、最後も伸びる。鞍上がペース判断の的確な武豊。G1勝ちは十分にあり得る」とは関西助手のジャッジだ。
ユタカとコンビを結成した近3走は全て1800メートル戦で、走破時計は1分45秒7→1分45秒4→1分45秒6。前半5F通過は順に58秒8→59秒2→59秒9と“幅”がありながらも、精密機械のようにほぼ同じ時計で3連勝を決めている。「よれたりする気難しさがあるのに勝ち切るあたりは本物かも」とは関西騎手の声。背景には、見た目以上に気分良く走らせている名手の手腕もあるのだろう。
「逃げ馬特有のもろさは感じない。ある程度のラップを刻んで、最後まで走り切れるのは強み」とは関西助手。また「強さが本物とはまだ言い切れないが、この馬が一番怖い。競りかける馬がいないし、そうかと言って自ら動いたら後ろに差されるかもしれない。仕掛けどころが難しいから、結局残っちゃう気がする」(関東騎手)と“展開の利”を力説する向きもあった。