エリートに立ち向かうロードクエスト

 8月31日の水沢競馬場。現場を訪れた当方が尊敬する他社のO記者は、その盛り上がりに目を丸くしたという。「マツリダワルツの子が重賞を勝ったぞ!」。前日の30日に新潟競馬場で行われた新潟2歳S。ロードクエストが圧倒的な走りで他馬を一蹴した。母マツリダワルツの3番子である。水沢競馬の関係者もみな笑顔で前日の様子を振り返ったそうだ。

 現役時代は07年岩手オークスを制し、古馬になってからは牡馬と交じって奮闘。400キロの小柄な馬体で通算46戦7勝とタフに活躍し続けたマツリダワルツは、地元ファンのハートをわしづかみにした。その後は北海道様似堀牧場で繁殖入り。代表の堀利則氏(66)は、懐かしそうに当時の状況を口にする。

 「体が小さい馬だから。厩舎の方では“繁殖になるのは難しい”と処分も検討されていた。でもオーナーが“やってみないか”ってウチに言ってきて。引き受けることにしたんです」。廃馬を免れ、スタートした第2の生活。現在、岩手競馬キャラクターを務める“ふじポン”こと藤井香子さんは牧場まで様子を見に来たという。いかにマツリダワルツが地元民から愛されていたかを物語るエピソードだろう。

 様似堀牧場は現在、繁殖牝馬を7頭抱える小さな牧場。妻・清美さん(54)と二人三脚で日々汗を流している。81年には2冠馬カツトップエースを輩出したが、それも今や昔の話。「様似町にも30近い牧場があったんだけどね。今は13~14かな。G1馬が出たのは、キョウエイタップ(90年エリザベス女王杯)が最後になるのかな」。優勝劣敗の厳しい世界。社台グループの台頭とともに、町の生産は縮小傾向にある。

 そんな状況下で生まれたロードクエスト。母が岩手のマツリダワルツという血統背景も手伝い、希望の星としてかかる期待は大きい。「町を挙げて応援してくれている。みんな励みになっているみたいです。今は社台グループがすごい。良血馬じゃないと重賞には勝てないのかな、という雰囲気もありますから。ウチのような小さなところからこういう馬が出ると喜んでくれるんです」。

 堀氏は新潟2歳Sで初めて中央の重賞を1人で見に行ったという。皐月賞も中山競馬場に訪れる予定だ。「繁殖の時期だから妻は連れて行けないけど。G1に出走する馬を見たら血統が素晴らしい。出られるだけで有り難いです。無事に走ってくれればという気持ちです」としみじみ語った。

 今年のクラシック第1弾は13年セレクトセールの当歳セリで2億4150万円(税込み)の値を付けたサトノダイヤモンド、母に05年オークス馬シーザリオを持つ超良血リオンディーズ、父ディープインパクトと同じく若駒S↓弥生賞を連勝した無敗馬マカヒキが“3強”を形成する。岩手発のサクセスストーリーを完結させるべく、ロードクエストはエリート色の強いライバルたちに立ち向かう。遠い様似の町民が送るエールを全身で受けながら。(デイリースポーツ・豊島俊介)

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