ダービー制覇へ 3代目ヒシマサル登場
POGの取材をするため2歳馬のリストを見ていると、懐かしい馬名に思わず目が止まった。すでにお気づきの方もおられると思うが、我ら中年世代にとって、3代目・ヒシマサル(牡2歳、栗東・角田)の登場は微笑ましいニュースだ。
新種牡馬ルーラーシップ産駒で、異父兄には13年目黒記念を制したムスカテールがいる良血。黒鹿毛のがっしりとした馬体が印象的で、1歳のセレクトセールでは6600万円(税別)の高値が付いた。今からデビューが待ち遠しい。
私が若き日に熱狂したヒシマサルは2代目で、ミホノブルボンやライスシャワーなどと同期の89年産。セクレタリアト産駒の外国産馬ゆえ、当時はクラシックに出走することができなかったが、同馬はそのうっぷんを晴らすかのように、裏街道を歩んできさらぎ賞、毎日杯、京都4歳特別を3連勝。G1には手が届かなかったものの、4歳(現3歳)で果敢に挑戦した92年ジャパンC(勝ち馬トウカイテイオー)では見せ場十分の5着に善戦し、ポテンシャルの高さを示した。あの豪快な末脚に魅了されたファンも多いことだろう。
実はこの2代目、初代がG1(59年安田記念)を制している上、種牡馬にもなっていたため、本来ならば馬名登録ができなかった。そこでオーナーは米国で「Hishi Masaru」として血統登録を行ったあとに輸入するという“裏技”を使って問題を回避した。執念が実り、晴れて2代目が誕生したわけだが、当然、当時はそのルールに対する是非が問われた。
これは公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナルの馬名登録実施基準への抵触が疑われるものだったが、ここでは終わった案件としてノーサイドとしたい。今、私が注目している3代目は、角田師によると「ルール上、今年から名付けられるようになった」そうだが、オーナーは馬名登録が解禁される今年を待っていたわけではなく「これっ!という馬が出たときに“ヒシマサル”と名付けようと思っていたそうです」とのこと。このジャストタイミングでオーナーのお眼鏡にかなった若駒は、実力以上の何かを持っているような気がしてならない。
ちなみに、初代ヒシマサルは阿部雅信氏が所有し、2代目は息子の雅一郎氏、3代目は孫の雅英氏…とバトンが受け継がれた。オールドファンにとって、最近はメジロ牧場やトウショウ牧場の閉鎖など寂しいニュースが続いたが、こういう形である種の“伝統”が受け継がれるのは喜ばしい。一ファンとして、競馬にロマンを追い続けるオーナーの夢を応援したくなる。
私は馬名が3代続いた競走馬の記憶がないのだが、角田師は「ウチにいるメイショウコロンボ(牡7歳)は恐らく3代目じゃないかな?オーナー(松本好雄氏)が“刑事コロンボ”のファンでね。メイショウピーター(牡3歳)も、主演のピーター・フォークから名付けられたもの。思い入れが強いよね」と話していた。こだわりが実を結び、コロンボは地方交流重賞で2勝をマーク。オーナーの期待に応える活躍を見せている。
3代目・ヒシマサルは現在、北海道のノーザンファーム早来で調整中。角田師いわく「結構大型ですが、背中のいい馬です」となかなか評価が高い。デビュー時期に関しては「長めの距離で活躍する馬だと思うので秋以降でしょうね。状況次第ですが、順調に行けば夏の札幌でゲート試験を受けて秋に備えると思います」と見通しを話した。
来る5月29日には、全てのホースマンが夢見る日本ダービー(東京、芝2400メートル)が行われる。そして、その翌週には早くも来年のダービーへ向けての戦いが始まる。「もちろん、クラシックを目指したい。先代が天国で喜んでくれるような活躍を見せて欲しいね」と角田師。初代が5着(58年)、2代目は出走がかなわなかった夢舞台へ-。長きに渡るオーナーの夢を乗せた3代目の挑戦を見守りたい。(デイリースポーツ・松浦孝司)