キズナ 種牡馬としてつなぐ親子の絆
栗東トレセンで取材中、北海道帰りの佐々木晶三調教師から興味深い話を聞いた。「やっぱりキズナはすごい。種牡馬として、間違いなく成功する」。
佐々木師が手掛けたキズナは、第80代日本ダービー馬(13年)。馬名の由来は文字通り「絆」。東日本大震災からの復興へ向けて「心をひとつに」という思いを込めて名付けられた。日仏で通算14戦7勝。15年9月に現役を引退し、現在は北海道安平町の社台スタリオンステーションで種牡馬として繋養されている。
種牡馬となったキズナ。一体、何がすごいのか?佐々木師によると、まずは“種付けに臨む姿勢”がすごいらしい。「とにかく腰が強い。普通、種付けの際には前脚を(繁殖牝馬の)肩に巻くんだけど、キズナの場合はそれがお腹のあたりなんだ。驚いたね。しかも、普通は首をかじってバランスを取るんだけど、キズナはき甲(馬の首と背の境にある膨らんだ部分)を噛んでいた。あんな馬は見たことがない」。
確かに、その姿勢を保つには腰の強さが不可欠。また、柔軟性も必要だ。「現役の時から運動機能が高かった。トレセン内にはいくつか障害物があって、馬はよくそれにぶつかるんだけど、キズナは一度も当たったことがないものね」。引退時の馬体重は504キロあったが、その大きさを感じさせないしなやかさがキズナにはあった。
次なるすごさは“受胎率”。この数字も驚異的らしい。「ノースヒルズグループ全体で既に21頭受胎していると聞いている。ノースヒルズでは15頭中14頭が受胎していて、あとの1頭は受胎確認中らしい。それが受胎していればパーフェクト。遺伝力が相当強いんだろうね。初年度ならば大体、7割付けばいい方。こんな数字は聞いたことがないよ」。種付けは7月上旬ぐらいまで行われるそうだが「どんどん付けているらしいから、今年は250頭ぐらいに付けるんじゃないかな」と佐々木師は推測する。生産者、特に小さな牧場にとって、受胎率の高さは種牡馬選択の大きなポイント。キズナは頼りになる種牡馬と言えるだろう。
キズナ自身、血統も申し分ない。父はいまや大種牡馬となったディープインパクトで、母系も半姉にG1・3勝の名牝ファレノプシスがいる優秀さ。佐々木師は「ディープを少し改良したような血統だし、馬格があるのがいいよね。性格もいい。扱いやすさも強調材料じゃないかな」と評価する。
生まれてくる子馬に対しては「とにかく気性が似てほしい」と願う佐々木師。現役時代のキズナは、オンとオフの区別がしっかりしていたそうだ。「普段は元気が有り余っていたけど、競馬モードになるとまるで猫のようだった。集中していたんだろうね。父親の気性は子どもにかなり受け継がれるものだし、そういう意味でキズナはウイークポイントが少ない、いい気性をしている。あの精神力を受け継いでほしい」と期待を込める。
初年度産駒は19年にデビュー予定。佐々木師の夢はもちろん“父子ダービー制覇”だ。「キズナが1歳の時にキャンターで走る姿を見て“これはダービーを獲れる”と確信したんだ。あの時のワクワクした気持ちを、キズナの子でまた味わいたいな。産駒の中から間違いなくクラシックホースが出て来るだろうし、ダービーはもちろん、凱旋門賞(キズナは13年4着)も3、2、1着と成績を上げられるように僕も頑張りたいね。キズナの子で、まだまだ夢の続きを見られると思う」。父から子へとつながれる“絆”。キズナ2世とともに再び世界へとはばたくその日を、佐々木師は心待ちにしている。(デイリースポーツ・松浦孝司)