安田記念 |
不屈の闘志でつかんだ | 2002/06/02・東京競馬場 | ||||||||||||||||||||||||||
直線を向くと、馬群の中からただ1頭の芦毛馬が馬場のド真ん中を抜けて出た。長かった。アドマイヤコジーンの鞍上で後藤はステッキを1発2発、必死の思いで振るった。本当に長かった。これまで歩いてきた11年の道のりの辛かったことやうれしかったことが思い出された。
ダンツフレームの追撃を振り切って激戦を制すると、後藤の右手が高々と府中に上がった。「直線の長さが身に染みた。これが夢だった。期待を裏切ってばかりいたけど、やっと“後藤浩輝”を示すことができた」。G1騎乗54戦目にして初めての栄冠を、その手にしっかりとつかんだ。 7万人の後藤コール。熱いものがこみ上げてきて涙が止まらなかった。かみしめるように馬場を1周すると、芦毛馬の上で観衆に丁寧に頭を下げた。検量室に戻ると、オーナーの近藤利一氏と、がっちりと抱き合い、子供のように涙を流した。 橋田師の目の周りにも、うっすら赤みがさしていた。調教師として、我慢我慢の連続だった。平成10年にG1を制して以来、コジーンは骨折や骨膜炎のアクシデントが続いて、長い低迷から抜け出せなかった。今年1月の東京新聞杯でようやく本来の強さが戻り、優に3年半を経てのG1返り咲き。馬とスタッフとで耐え抜いての勝利だった。 「2歳の時しかG1を勝たないと早熟と思われるけど、そうではないと信じてやってきた。この馬の名誉のためにも非常に価値のある勝利になった」とトレーナーは、2度の骨折をはね返した不屈の馬をねぎらった。そして「後藤君は一つG1を勝ったことで、これからたくさん勝つようになるんじゃないか」。3日から3カ月、欧州へ技術研修に出かける鞍上にはエールを送った。 苦労をした分、辛抱の期間が長かった分、勝利者の感慨は、いっそう鮮やかに際立ち、深いものとなった。(岩下昌弘) |
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