ダービー(東京優駿) |
メイショウサムソン2冠 2006/05/28・東京競馬場 |
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いぶし銀のコンビが頂点に上り詰めた。22年目のベテラン石橋守騎手(39)=栗東・フリー=のエスコートを受けた皐月賞馬メイショウサムソン(牡3歳、栗東・瀬戸口)が、粘るアドマイヤメインを競り落として、2冠馬に輝いた。昨年のディープインパクトに続く3冠馬の誕生へ、夢は膨らんでゆく。 | ||||||||||||||||||
【大テレ…石橋守「似合わない」】 派手なガッツポーズはなかった。「手が震えちゃって」。22年目を迎えたベテランジョッキーが、はにかんだようにゴールの瞬間を思い起こした。それでもレースは普段通りの石橋守として、自然体で挑むことができた。「まさか1番人気になるとは…という気持ちがあって、プレッシャーもあった。でも、先生から気楽に乗ってこいといわれたから」。8823頭の頂点。そして2冠達成。石橋守の導く手綱と皐月賞馬メイショウサムソンが一体になった。 レースは淡々とした流れだった。千メートル通過1分2秒5のスローペース。4番手でその蹄を進めたメイショウサムソンは前にいるアドマイヤメインだけを見ていた。長い直線を迎えて徐々にその差を詰めていく。あとは並びかけるだけだ。残り三百メートルが合図だった。狙った標的を射抜き、競り落とすと、残り百メートルはわずかな差を保ちながら後続の追撃を封じた。 22年目のベテランは5度目の挑戦で栄冠を手にした。悲願のダービー制覇に「うれしい。騎手として感謝している。感無量です。ダービージョッキー?似合わない」と照れながらも、ストレートに喜びを表現した。デビュー戦から一戦も欠かすことなく手綱を取り、自ら普段の調教にもまたがった。来るべき最高の日を思い描いて、パートナーとの信頼感を深め合った。「馬の力を信じてこの馬の競馬をしようと思っていた。皐月賞の3倍ぐらい直線が長く感じたけど、後ろから来られない自信もあったから」。相棒のすべてを熟知するベテランはそのきずなを強調した。 昨年のディープインパクトに続く2冠達成は、たった1頭に与えられた3冠のチャンスを意味する。「気を引き締めてサムソンと一緒に頑張ります。去年がすごい馬だったから、ちょっとでも近づければと思う。まだ強くなると信じています」と心強いパートナーのさらなる成長を思い描く。2年連続の偉業へ、信頼に裏づけされた“いぶし銀コンビ”の自信が揺らぐことはない。 【目に涙…瀬戸口師 有終V】 来年2月いっぱいで定年引退を迎える瀬戸口勉調教師(69)が、最後のダービーでも夢をつかんだ。03年のネオユニヴァース以来、2度目の制覇(G1通算13勝目)。昨年、自身初めてリーディングトレーナーに輝いたが、今年は調教師人生の集大成として、ネオユニヴァースで果たせなかった“3冠”に挑む。
最高のドラマが待っていた。来年2月いっぱいで定年引退を迎える瀬戸口師。オグリキャップをはじめとする名馬を育ててきた69歳の名伯楽が、最後のダービーで有終の美を飾った。 「おめでとうございます」。ゴール直後の検量室前では、瀬戸口師を中心に祝福の声が飛び交った。 勝利は意外に早く確信した。序盤のスローペースに少し不安を感じたものの、メイショウサムソンが勝負どころへ向けて位置取りを上げていくのを確認すると、直線に入ったときには「安心して見ていた」という。それだけ、愛馬の実力に揺るぎない信頼を置いていた。「あまり大きくは勝たないけど、勝負根性があってしぶといからね。最後は首差かな。何とか勝ってくれた」。03年にネオユニヴァースでダービーを制覇してからわずか3年で再びつかんだ頂点の喜び。 興奮と喜びに包まれた指揮官は、目を潤ませながら人込みをかきわけてきた盟友と手を取り合った。今年2月、ひと足先に引退した北橋修二元調教師だ。北橋氏とは“2人で一人前”を合言葉に切磋琢磨(せっさたくま)してきた。何も言わずとも意思が通じ合う友からの祝福が、何よりもうれしかったに違いない。瀬戸口師も感極まった表情で無二の親友と喜びを分かち合った。 これでサムソンは2冠達成。ネオユニヴァースで果たせなかった夢に、もう一度挑戦するチャンスが巡ってきた。ホースマンなら誰もがあこがれる“3冠”の称号。「勝つたびに、馬に貫録が出てきたなと思う。これで夢が広がってきた。距離は文句ないから」と早くも菊花賞(10月22日・京都)を意識する。 ネオユニヴァースで皐月賞、ダービーをともに1番人気で制覇。菊の舞台でも1番人気に推されながら、3着に敗れた。調教師として腕を磨いてきた30年間の集大成として、秋には最高の栄誉を手に入れる。 【松本オーナー悲願!満面の笑み】 勝利者だけが体感できる最高の喜びだ。第73代ダービー馬のオーナーとなった松本好雄氏(68)は、「感無量。夢のまた夢だった」と満面の笑みで“孝行息子”メイショウサムソンを出迎えた。 1番人気でのダービー制覇。74年に馬主資格を取得してから、心のどこかでは夢見ていた偉業を実現した。「私は楽しもう楽しもうと思っていたんですが、発走の時間が近づくと周りの人が気にし始めてね」。レースが近づくにつれて、次第に緊張感も高まっていった。胸の高鳴りが頂点に達したところが、栄光のゴール。「プレッシャーをはねのけた調教師、ジョッキーはすごい。本当にごくろうさまと言いたいです」とスタッフの労をねぎらった。 兵庫県明石市出身のオーナーは、明石の“明”と松本の“松”を取り、愛馬には“メイショウ”の冠名を付けている。競馬の世界で“名将”として活躍してほしいという愛馬たちへの願いは、最高の舞台でサムソンがかなえた。「地味な血統だけど、ここまで育ててくれた。スタッフ一丸の結果だと思うし、みんなも夢が持てるでしょう」。2冠を達成したことで、夢はさらに3冠へとつながっていく。皐月賞、ダービーと2度の緊張感を味わったオーナーは、「今度こそは楽しみます」と笑った。
【アドマイヤメイン 逃走劇あと一歩…】 ゴールまであと百メートル。自分のスタイルを崩さずに逃げたアドマイヤメインだったが、最後の最後で夢は砕け散った。史上初、青葉賞馬のダービー制覇は達成されなかった。 前半1分02秒5のスローな流れをつくり、4コーナーでは抜群の手応え。直線半ばで満を持して追い出したが、メイショウサムソンに一気にかわされた。「道中の感じは良かったが、並ばれてからは勝った馬が楽だった。もう少しいい馬場でやりたかったね」と柴田善。感情を表に出さず、淡々とした語り口調だが、素直に勝ち馬の力を認めた。橋田師も「差し返すところはあったが、今日は勝った馬が強かったよ」と現状での力の違いを強調した。 今後はノーザンファームへ放牧に出され、ひと息入れる予定。秋にはひと回り大きく成長した姿で、メイショウサムソンへ挑戦状を叩きつける。 【ドリームパスポート 最速の上がり】 皐月賞2着の実績ながら7番人気。そんな低評価をあざ笑うかのように、ドリームパスポートは府中の直線、最速の上がりを駆使して3着。「一瞬夢を見たね。とても乗りやすいし、坂下でも引っ張ったままだった。しまいは本当にいい脚を使ってくれた」と初騎乗の四位はパートナーを絶賛。松田博師も「よく走ったね。常にしっかりと自分の力を出してくれる。まだどの条件がベストかは分からないけど、そのうちチャンスが来るだろう」と愛馬をねぎらっていた。 |
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