宝塚記念

史上最速10億円馬
圧勝!ディープインパクト5冠

2006/06/25・京都競馬場

▼ 第47回宝塚記念
1着 
ディープインパクト
武豊
2.13.0
2着
ナリタセンチュリー
田島裕
3着
バランスオブゲーム
田中勝
3/4
   
 世界に向けて発信された“第5の衝撃”。凱旋門賞挑戦を前にした国内前哨戦で、ディープインパクトが後続に4馬身差をつけて圧勝。史上3位タイのG15勝目を挙げ、史上最速での賞金獲得額10億円馬(7頭目)となった。単勝支持率はレース史上最高となる驚異の75・2%を記録。ハイセイコーと並ぶ、デビュー以来11戦連続の1番人気を記録し、見事に声援に応えた。
ゴール前はいつも通りディープインパクト(右)の独壇場。完ぺきな強さを魅せつけた=京都競馬場
 

 【本物のヒーロー誕生に豊も感謝】

 壮行戦でも鮮やかに飛んだ―。圧巻のドラマは、後方2番手の“指定席”から始まった。ディープインパクトは3コーナー入り口から始動。坂の下りで勢いをつけ、大歓声のなかで直線へ向くと、ユタカはムチを一定のリズムで何度も振るった。ゴール板の手前、最後の1発を打ち込むかと思われた右腕は、そのままグッと握られガッツポーズに変わった。後続に4馬身差をつけた5度目の戴冠。史上7頭目、そして最速での賞金獲得額10億円ホースとなった瞬間だった。

宙を飛ぶフォームで外を回って先頭集団を捕まえにかかるディープインパクト=京都競馬場

 稍重の馬場も雨も、そしてライバルたちの走りも、無意味な抵抗でしかなかった。「馬がゴーサインを待っていた。さすがに強い。レース前はデビュー以来、一番落ち着いていた」と、さらに成長した王者にジョッキーも感心しきり。表彰式の直前、ディープの馬上から空へ向かって5本の指を突き上げる姿は、まぶしいほど輝いていた。

 レース前、ユタカはぎっしり埋まったスタンドをターフから見渡した。そして、ファンが馬券の当たり外れを超えて応援してくれていることを感じ取った。競馬界の枠を超えた本物のヒーロー。「こういう馬が現れたらいいなと願っていた。さらに夢と希望を抱かせてくれた。遂に現れたという気持ち」と感謝するかのように話す。ディープこそ、待ち望んでいた理想のサラブレッドだ。

 いよいよ次の標的は世界。最高峰レースの凱旋門賞に挑戦する。「この馬で行かなかったら、どの馬で行くのかと思う」。日本が生み出した最強のスターホース。「正直な気持ち、この馬より強い馬がいるのかなと思う」。日本競馬史上初めての凱旋門賞制覇へ向けて、われらのディープが飛躍する。

 【池江郎師「満足していない」】

 喜ぶのは1日だけでいい。レース後の池江郎師の目には、凱旋門賞の舞台に立つディープインパクトの雄姿が浮かんでいた。「さらに磨いてディープな形にしたい。これで満足はしていない。鍛えに鍛える」。世界の超一流馬との対決。勝利を意識するからこそ、出てくる言葉だ。

 さすがにレースでは興奮を隠せなかった。いつものように枠順と同色のネクタイを着用。この日は緑だった。最後の直線。スパートするディープを、右こぶしを左右に振りながら応援。ゴールの瞬間は、両手を上げてバンザイをした。「心配ご無用の答えだった」と安どの表情を浮かべた。

武豊は右手を掲げて高らかに5冠を宣言

 トレーナーにとっても、欧州のレースは夢だった。97年8月23、24日に、仏ドーヴィル競馬場で行われた「日仏ジョッキーズチャレンジ」。日本から岡部、横山典、武豊、藤田が招待され、仏一流ジョッキーと腕を競った。当時、池江郎師も海外視察で観戦し「競馬の歴史が違う。向こうの競馬場は自然の中にある」と雄大さに大きく感動。「いつかはこういうところで競馬したい」と思っていた念願が、ついにかなうときが迫っている。

 伝統と重みに彩られた数あるレースの中でも、最高峰のひとつとなる凱旋門賞。「ドバイ、香港とは違った喜びがある」。だが、参加するだけでは意味がない。「車で言うとスポーツカー。無駄なものはつけていない」と評するディープを、さらにバージョンアップさせる。「10日くらいゆっくりさせて、軽い調教を始める」。ハードな調教で有名だが、徐々にピッチを上げながら究極の池江流で仕上げていく。“世界規格”となって決戦の地に立ったとき、結果は必ずついてくる。

 【「夢見た…」ナリタセンチュリー2着】

 「一瞬、夢を見たけどね」。2着に敗れたナリタセンチュリーに田島裕はサバサバとした表情で振り返った。

 道中はディープインパクトの斜め前。強敵を意識してレースを進めた。「仕掛けようとしたときに相手が来なかったからイチかバチかで内を突いた。でも、瞬発力が違ったね。4馬身差?それじゃ、悔しがってもしょうがないな」と、直線で抜き去られた怪物に脱帽の様子。だが、ほかの11頭を負かした2着は秋につながる。最後は「向こうはムチが入っていたし、それだけでもうれしいじゃない」とディープを本気にさせたことに誇らしげだった。

 先頭を駆けたのは海外へと羽ばたく規格外の馬。健闘の2着に藤沢則師も悔しさはない。「ジョッキーの好判断。最後はエンジンが違ったけど、力を発揮できたからね」と、納得の表情を見せた。調子が戻るのを待つ日々。想像以上に長い1年2カ月だった。落ち着きを取り戻した本来の走りに、トレーナーは「大ブランクをよく乗り越えた」とねぎらった。今後はオーナーと相談してからになるが「放牧に出して、秋に向かってローテーションを組みます」と復活Vを期待していた。

 【リンカーン 道悪下手9着】

 好位で流れに乗ったが、直線で失速。2番人気に支持されたリンカーンは、9着に敗れた。「道悪はマイナスだね。そういうイメージはあったんだけど、予想どおりだった。それだけが敗因じゃないんだけど…」と、唇をかむ横山典。午前中から降り続けた雨。厳しい馬場状態に、いつもの安定した走りが“封印”された。音無師は「道悪は下手だね。こういうときに限って(馬場状態の悪い)(1)番枠が当たったのがね。このあとは休ませて、また秋に盛り返します」と、気持ちを切り替えた。

 【コスモバルク 動けず8着】

 シンガポールに続くG1連勝の夢。コスモバルクは雨に8着と散った。外めの4番手でうまく折り合ったが、3角過ぎで飛んだ五十嵐冬のこん身の左ステッキに反応はなかった。「流れが速くなった時に動けなかった。バルクの力を発揮できる馬場じゃなかった」とガックリ。対照的に岡田美佐子オーナーは「無事に走ってきてくれたから、それで十分」とホッとした表情を見せた。今後は夏休み。秋は再び天皇賞を目指し、毎日王冠(10月8日・東京)からの始動になりそうだ。

 
ディープインパクト…牡4歳。父サンデーサイレンス、母ウインドインハーヘア(母の父アルザオ)。馬主・金子真人ホールディングス(株)。生産者・北海道安平町 ノーザンファーム。戦績・11戦10勝。主な勝ち鞍・05年皐月賞、05年ダービー、05年菊花賞、06年天皇賞(春)。総収得賞金・1、019、175、000円。池江泰郎調教師は93年メジロマックイーンに続く2勝目。武豊騎手は89年イナリワン、93年メジロマックイーン、97年マーベラスサンデーに続く4勝目。

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