秋華賞

ニューヒロイン誕生!ディープに続け
プリンセス 史上初!無敗で樫&秋華V

2006/10/15・京都競馬場

▼ 第11回秋華賞
1着 
カワカミプリンセス
本田
1.58.2
2着
アサヒライジング
柴田善
1/2
3着
フサイチパンドラ
福永
1 1/4
   
 ディープインパクトに続けと、新しいスターの誕生だ―。春には49年ぶりに無敗でオークスを制したカワカミプリンセスが、ゴール前できっちり差し切り2冠目を奪取。史上初めてオークス―秋華賞のダブルタイトルを無敗で制した。中146日となるぶっつけ本番でのVは秋華賞史上最長タイ。また、鞍上の本田は、自身の持つ秋華賞最年長Vを、47歳9カ月12日に塗り替えた。
ゴール前、アサヒライジング(左)を交わし秋華賞を制したカワカミプリンセス=京都競馬場
 

 【理解を超えた強さ】

 無敗伝説には、かすり傷ひとつ付かなかった。牝馬3冠の最終章。オークス馬カワカミプリンセスは、これまでにない好スタートを切ると道中は中団の外めを追走。本田がGOサインを送ったのは3角を過ぎたあたりだった。4角手前でステッキが一発。走る気がみなぎり、グンと加速した。最後はしぶとく粘るアサヒライジングをかわすと、V5を決める栄光のゴールを駆け抜ける。史上初となる、無敗のオークス―秋華賞制覇だ。

記念撮影に納まる本田騎手(右)と西浦調教師(左)=京都競馬場

 「僕が理解できない強さを持っている」。鞍上の“チョイ悪オヤジ”がうめく。「オークスよりも成長していたからね。落ち着いていたし、気性だけじゃなくて肉体面もね。未知な馬」―。

 デビュー以来、手綱を握っている本田は、平地競走の騎手としてはJRA最年長の47歳。これまで通算753勝を挙げている大ベテランにして、その驚異的な成長力は初めて経験する感触だという。そして、成長力だけではなく、精神力の強さにも舌を巻く。「4角で内からぶつけられて外へ振られたけど、ヒルんだりしなかった。立て直してからまた伸びてくれた」とそのタフさに目を丸くした。

 次の標的はエリザベス女王杯。01年には秋華賞を勝ったテイエムオーシャンで挑んで5着に敗れた。今度は無敗を誇るニューヒロインで古豪牝馬に挑む。「こちらの思い描いたとおりに成長しているし、言うことがない。オークスを勝った時から目標は決まっていたんだから。次に向かって頑張りたいね」と5年越しのリベンジへと意気込む。

 「かわせなかったこともないし、かわされたこともないから」。早めに前へと襲いかかる強気なレースも、その能力を信頼しているからこそ。昨年のディープインパクトに続く、無敗のチャンピオンの誕生。天井知らずの成長力で、今度は古馬封じを狙う。

 【中146日も仕上げに自信】

 中146日を見事に克服した。「負けるはずがない」。西浦師はその仕上げに絶対的な自信を持っていた。01年にはテイエムオーシャンでオークス→秋華賞の“ぶっつけ本番”を成功させている。無敗馬・カワカミプリンセスもオークス勝利後、すぐに西浦流の直行を決めた。

 4コーナーで少しズブさを見せた。「ヒヤッとした。1回使っていたらよかったかなと…。馬の力で勝ってくれた。やっぱり思っていたとおり、最高の出来だった」。指揮官は育成所とスタッフの仕上げに胸を張った。

 「付き合いのある牧場に“当歳が生まれた”と聞けば絶対に駆けつけている」。カワカミプリンセスが生まれた時にも自ら足を運んだ。「1歳の時に見たときはちょっと驚いた。かなり成長していたからね」と今ある成長の原点を振り返る。

 これまでは同世代の中での戦い。次なる挑戦がまた待っている。「この馬ももっと力をつけて、来年は牡馬とも戦わないといけないからね」。エリザベス女王杯まであと1カ月―。無敗の2冠馬に、西浦師は温かい視線を送った。

 【「負けたと思って見られなかった」】  

  カワカミプリンセスの上山浩司オーナーは自分が生産した馬を、自分で持つ、いわゆるオーナーブリーダー。何億という大金が飛び交う昨今では珍しい存在だ。留守番の奥さんだけ牧場に残し、家族を引き連れ応援にきた。「4コーナーで負けた、と思って見ることができなかった。でも、ゴールを見たら勝っていた。みんなに2冠を見せることができてよかった。うれしいです」と足早に空港へと向かった。

 【ライジング無念 日米G1連続2着】  

 栄光のゴールまであと一歩だった。残り三百メートルで先頭に立ったアサヒライジングが、場内の大歓声を後押しに激走する。あと五十メートルの地点までトップをキープしていたが、最後の最後で力尽きた。無念の銀メダル。アメリカンオークスに続き、日本のG1でも頂点には届かなかった。

2着と健闘したアサヒライジング=京都競馬場

 「惜しかったね」。引き揚げてきた柴田善の顔には悔しさがにじみ出ていた。逃げ、先行で結果を残してきたアサヒライジングにとって、不安材料となる外枠。しかし、テンから軽快に飛ばした3頭の離れた4番手を追走し、直線で早めに抜け出す味のある競馬をした。「レース内容としては完ぺきだったけど、勝った馬が強かった」。ベテランも勝ち馬をたたえるしかなかった。

 桜花賞4着、オークスで3着に好走し、海を渡ってアメリカンオークスでも2着に激走した。G1の舞台で頂点まであと少しのところまできていたが、ここでも2着に敗れた。「一生懸命走ってくれた」と古賀慎師。悔しい気持ちをぐっとこらえて、愛馬の走りを褒めた。「アメリカから帰ってきて成長は感じていたし、これで先が楽しみになった」と早くも次の目標に頭を切り替えていた。

 次はエリザベス女王杯。今度はカワカミプリンセスだけではなく、古馬陣も相手にしなければならない。真価を問われる一戦になるが、著しく成長を遂げているアサヒライジングなら、頂点に立つのも夢ではない。

 【フサイチパンドラ 力出し切った】

 フサイチパンドラは3着。福永は「(横山)ノリさんの位置(=5番手を進んだシークレットコード)が理想だったけど、だいたいイメージ通りに乗れた」と振り返った。中団の位置を追走。直線では差し脚を伸ばしたが及ばなかった。「最後までしっかり走っていた。ああいう競馬がいいのか、ハミを替えたのがよかったのか…。勝った馬をほめるしかないね」と力を出し切れたことに、満足そうだった。

 【また末脚不発…ユタカ嘆きッス】

 最後の1冠さえも手にすることはできなかった。アドマイヤキッスは中団追走から直線の追い込みにかけたが4着止まり。桜花賞、オークスに続いて、またしても1番人気の期待を裏切る結果になった。

 「おとなしかった。ローズSみたいな伸びもなかった。オークスのときと全く一緒」と武豊はため息をつく。陣営が““お嬢様≠ニ呼ぶほどのお上品な気性が、ここ一番でアダとなってしまった。「レースはカワカミの後ろで、4コーナーまでいい感じだったけどね」。最後は勝ち馬と同じ34秒4の末脚を繰り出したが、そこまでが精一杯。栄冠には届かなかった。

 自信を持って送り出した松田博師もガックリ。「(レースの)上がりが速かったな。それでも切れた方と違うか」と愛馬をかばいながらも「結果が出てないんだから仕方ないよな」と肩を落とす。春から期待いっぱいで挑戦した牝馬3冠ロードだったが、夢はかなわなかった。

 【キストゥヘヴン アレッはじけず】

 6着に敗れたキストゥヘヴンはレース後に歩様が乱れ、周囲を冷やりとさせたが、かすり傷程度で大事には至らなかった。その影響か、スムーズなレース運びをしたものの、直線でいつものようにはじけなかった。安藤勝も「最後はどこでも行けるポジションをとったが、そこへ突っ込む脚がなかった。前走より落ち着いていたし、いい感じだったけどね」とふに落ちない様子だった。

 
カワカミプリンセス…牝3歳。父キングヘイロー、母タカノセクレタリー(母の父シアトルスルー)。馬主・(有)三石川上牧場。生産者・日高 三石川上牧場。戦績・5戦5勝。重賞・06年オークスに続き2勝目。総収得賞金・255、670、000円。西浦勝一調教師、本田優騎手ともに01年テイエムオーシャンに続き2勝目。

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