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驚異の末脚で３冠の夢切り裂いた
ソングオブウインド レコードＶ

2006/10/22・京都競馬場

大外から切れ味を発揮してドリームパスポートらを捕らえたソングオブウインド（右端）＝京都競馬場

　３冠の夢を打ち砕くかのように、ソングオブウインドがメイショウサムソンの横を一瞬にして通り過ぎた。後は粘るアドマイヤメイン、先に抜け出したドリームパスポートの２頭だけ。メインをかわして、パスポートとの激しい追い比べ。上がり３３秒５の末脚は止まることはなかった。首差封じ込んでゴール板を駆け抜けた。

ソングオブウインドが菊花賞を制し鞍上の武幸四郎が雄叫びをあげる＝京都競馬場

　武幸の勝利への執念が上回った。「正直、３冠を阻止しようという気持ちはなかった。ただ、僕が勝ちたい気持ちだった」。掲示板にレコードの赤い文字が浮かんだ。３分２秒７。「タイムは考えていなかった。かわせるかなとは思ったけど、最後まで必死に追った」と興奮気味に語った。「春からいい馬だと思っていたが、歯がゆいレースが続いた。一番いいところで能力を出してくれた」。最後の１冠を手にした、パートナーの労をねぎらった。

　最後に賭けた。普段から気の強いタイプ。位置取りは予定より後方になったが、道中でケンカをすることは避けたかった。「折り合いだけに気をつけた。とりあえず最後の坂までは我慢しようと思った。とにかく馬がリラックスしていた」。人馬の呼吸が合ったことを、最大の勝因に挙げていた。

　なかなか実感がわかない。「重みのあるレース。これからうれしくなるでしょう。早く明日の朝刊が見たい」と周囲を笑わせた。今は達成感があるだけ。勝利の余韻は、戦いの場を後にしてから味わえばいい。

　次走は未定。「これだけの競馬ができる。無事に行ってくれれば」。出世するまで時間がかかったが、ようやく花が開いた。菊の称号を得たソングオブウインド。これからも旋風を起こす。

　【ブライトの雪辱！山吉助手大喜び】

　ソングオブウインド、パッシングマークの２頭出しで臨んだ山吉助手は、喜びもひとしおだった。以前に担当していたメジロブライトは９７年に３着に敗れた。「ブライトは三千メートルは大丈夫だと思っていたけどね。今回は自信というほどはなかったが、状態で心配するところは何もなかった」。見事に“先輩”の雪辱を果たしてくれた。「３冠がかかるレースに出走できるだけで幸せだった。あっけにとられたよ」と笑みが絶えなかった。

　【牧場開業12年目で初クラシック制覇】 　

　ソングオブウインドの生産者、追分ファーム・吉田晴哉社長も念願がかなった。これまでハットトリック、ゴールドアリュールとＧ１馬は出しているが、クラシックには縁がなかった。牧場を開業して１２年目。今回はミストラルクルーズとの２頭出し。母系はゆかりの血統で、思い入れもあった。「ようやくね。気合が入りました」と喜んでいた。

　【サムソン失速４着…３冠の夢果たせず】 　

　夢は果たせなかった。史上７頭目の３冠馬を目指したメイショウサムソンだが、前をとらえられず４着に終わった。「馬を信じていた。そうでなければ馬に失礼だから」。２冠馬の力を信じ、こん身の力を込めて追った石橋守。４コーナーを回ったところでは、逃げるアドマイヤメインもとらえられると思っていた。しかし…。とらえるどころか突き放されたことに「なぜだろう」とショックを隠せない。

４着のメイショウサムソンをねぎらう石橋守騎手＝京都競馬場

　「馬はいい状態だった。折り合いも付いたし、展開も予想していたことだけど…。でもよく頑張ってくれた。ありがとうと言いたい」とともに歩んできた“相棒”への感謝の気持ちを口にした。

　瀬戸口師は「あの時計で走られてはねえ」と敗因を分析。「いいとこに付けて行っていたし、乗り方としては言うことない。残念だけど仕方ないよ」。来年２月で定年。最後のクラシックを勝利で飾れなかったことにも、独特のヒョウヒョウとした風情で話した。

　次は古馬の強者（つわもの）たちが相手。「これからもっと強くなる馬」。そう話す石橋守の目は、しっかりと前を見据えていた。

　【松本オーナー「申し訳ない」】

　３冠を逃したメイショウサムソンの松本好雄オーナーは、レース後も気丈にふるまった。「ファンの方にたくさん支持していただいたのに、負けてしまって申し訳ない気持ちでいっぱい。まあ、この先のレースで頑張ってくれるでしょう」。勝者となった武幸に「幸ちゃん、おめでとう」と駆け寄り握手、その後、石橋守の肩をたたいてねぎらった。「瀬戸口さんが最後ですからね。有馬か、あるいはＪＣか」。次戦での雪辱を誓っていた。

　【無念ドリーム２着、メイン３着】

　粘るアドマイヤメイン、猛追するドリームパスポート。昨年の菊花賞とは正反対の、武豊と横山典の激しい叩き合いが続く。当面の敵・メイショウサムソンを封じた２頭だが、最後はソングオブウインドの決め脚に沈黙。３冠最終章での“悲願”に、どちらも届かないまま終わった。

　これで、４年連続の菊花賞２着。ドリームの横山典は「仕掛けをワンテンポ遅らせた。三千メートルの距離を心配したけど、頑張ってくれたね」と、パートナーをねぎらった。ハイラップを刻み、メインのスタイルを貫徹しての３着。武豊は残念そうに振り返る。「惜しかったね。前半の千メートルが５８秒７というのもターフビジョンで確認して、途中でペースダウンもできた。３分３秒台で走れば勝てると思っていたんだけどね。去年の横山典さんの気持ちが分かったよ」と、勝ち馬の強さを称えていた。