エリザベス女王杯 |
直線斜行…魔さかカワカミ1位降着 2006/11/13・京都競馬場 |
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まさかの結末だった。無傷の6連勝でカワカミプリンセス(牝3歳、栗東・西浦)が頂点に立ったと思われた。だが、最後の直線で内側に斜行、他馬の走行を妨害したため、12着に降着となった。G1での1位入線馬の降着は、91年天皇賞・秋のメジロマックイーン以来。無敗での変則牝馬3冠の夢は思わぬ形で散ってしまった。なお、主戦の本田優騎手(47)=栗東・フリー=がレース後、年内引退を示唆した。 | ||||||||||||||||||
【無敗の牝馬変則3冠ならず…12着】 歴史的快挙が一瞬で暗転した。“1着(16)番”と表示された掲示板に赤い審議のランプが灯る。審議の対象馬は、先頭でゴール板を駆け抜けたカワカミプリンセスだった。
歓喜の輪から西浦師が呼び出される。長い審議を終えて、こわばった表情で再び姿を現し、静かに首を横に振った。G1では91年天皇賞・秋のメジロマックイーン以来となる、1位入線馬の降着。場内のどよめきが、天国から地獄の底へと突き落とされたヒロインに降り注いだ。 4コーナーから直線へ、馬場の中央へと進路を取る。外にはカワカミをマークしていたスイープトウショウが一歩早く抜け出していた。本田が振るう左ステッキに、右へとヨレながら馬と馬の間へと入っていく。その瞬間、進路をふさがれたヤマニンシュクルの四位が手綱を引っ張った。その一連の行動に対して「外ムチを使った明らかな斜行」と、裁決委員の小林善一郎氏は説明した。 やりきれない思いを振り払い、西浦師は時間を置いてから重い口を開いた。「ルールはルール。それに従わないと。不服申し立て?しないよ。したところで覆らない。カワカミは強い競馬だった。強くなっている。それはみんな分かっている。勝ったのにね。プリンセスがかわいそうやな。また来年頑張ります」。そう言い残すと、カワカミの待つきゅう舎へと足早に引き揚げた。 本田も表情をこわばらせて事情を説明する。「いつもよりも反応が悪くて…。4コーナーでは着もないんじゃないかと思ったほど。前の馬が内へ入ってきたときに馬場に脚を取られた」とショックを隠せなかった。 予期せぬ形でその手から落ちていった。無傷の6連勝、変則牝馬3冠、最強牝馬誕生…歴史的な快挙が降着によって、記録に残らない“1着”となってしまった。最強牝馬の座は幻となり、後味の悪い形で無敗伝説は止まった。
【「燃え尽きた」本田騎手 年内引退へ】 覚悟を決めた。スッキリした表情がそう感じさせた。「燃え尽きたわ。きれいさっぱりや」。レース後、本田は検量室にある馬具をきれいに片づけると、大きなバッグ2つを持って、取材陣に囲まれるフサイチパンドラ陣営の横を通り過ぎた。 「もともと今年いっぱいで引退しようって思っていたからな。年齢も年齢やから。でも、この一件が原因じゃない。まあ、騎乗停止期間中にゆっくり考えるわ」 口をついて出た突然の引退宣言。“降着”が引き金ではないことを強調したが、冷静な口調が勢いで出た言葉ではないことを物語っていた。 「俺の責任やからな。勝ちは勝ち。馬は強かったよ。勝ったんだから。裁決委員には“俺からナンボ制裁金を取ってもらっても構わない。でも、馬は堪忍してやってくれ”って言ったんや。でも、駄目だった…」 赤くはらした目で自らを執ように責めた。「来年は(カワカミを)誰かに任せる。また応援してやってよ。そう言えば、オレ、エリザベス女王杯が初めて乗ったG1だったんだよな」。そう言い残すと、穏やかな表情で車に乗り込んだ。 【祐一複雑…Vにも厳しい表情】
勝利の女神は気まぐれだった。2着に敗れたと思ったフサイチパンドラだったが、1位入線のカワカミプリンセスが降着したため、繰り上がりで統一女王に輝いた。 初めての重賞制覇がG1の快挙。だが、素直に喜ぶことはできなかった。1位入線のカワカミプリンセスがまさかの降着。フサイチパンドラが繰り上がりで女王の座を手にした。「スカッとした勝ち方ではなかった」と福永は厳しい表情を浮かべた。そして「2着に来ていなかったら、繰り上がりはなかった」と続け、パートナーをたたえた。 執念が勝利を呼び込んだのは事実だ。福永も作戦を練った。パンドラの機嫌を損ねないように、レースではステッキを使わなかった。「追い切りでも最後にムチを使うとやめてしまうので、実戦でも試してみた。結果的に功を奏した」。道中は中団の外と理想的なポジション。抜群の手応えで直線に向くと、手綱から伝わるGOサインを受け止める。最後まで脚色が鈍ることはなかった。カワカミには届かなかったが、古馬最強牝馬のスイープトウショウには先着してみせた。 デビュー当初から高い期待を受けた良血馬。だが、気性の難しさが勝ち星を遠ざけていた。いつもあと一歩で届かない。陣営は気持ちが途切れないようにと、3着に敗れたローズSの後からハミを替え、馬具も工夫した。普段の調教から集中力が増すようになり、徐々に効果が表れていた。 白井師も「複雑な気持ち」と言葉がはずまない。それでも期待はあった。「能力はあると思って送り出した。いい感じで(4角を)上がってきたときはドキドキした」と振り返った。決して満足のいく内容ではない。それだけに、ライバルとの再戦を待ち望んでいる。「カワカミプリンセスは本当に強い。こういう形にはなったが、今度は本当の真剣勝負で」と、改めて挑戦状をたたきつけた。 次はジャパンCに向かう予定。今度はディープインパクト、ハーツクライを筆頭に、世界レベルの戦いとなる。思わぬ形で、あと一歩が届いた。新女王は前へと突き進むだけだ。 【関口オーナー「帰るところだった」】 関口房朗オーナーにとっても驚きの勝利だった。2着だと思い、競馬場を後にしようとしたが、連絡を受けて慌てて戻ってきた。「向こう(カワカミプリンセス)の方が強いと思って、あきらめて帰ろうとしたんだが…。勝負に負けて競馬で勝った感じ」。スッキリとした内容ではないだけに、普段の“関口節”が出ることはなかった。期待の2歳馬ザサンデーフサイチの故障が判明したばかり。“先輩”の明るい話題とスタンドのファンからの温かい声援に「まあ、素直に勝ったことを喜びたいと思う」と最後は笑みを浮かべていた。 【2着スイープ 自慢の末脚不発】
すべては思い通りに進んでいた。この日のスイープトウショウは、馬場入りもゲート入りもスムーズ。スタートも良かった。道中のポジションも最大の強敵カワカミプリンセスの直後。あとは直線で自慢の末脚を繰り出すだけだった。 大外から襲いかかる。一気にぶち抜くか―そう思われたがラスト1Fで脚が止まった。「絶好の位置取り。追い出しにも反応してくれた。それなのに最後は一緒の脚色になってしまった。まとめてズバッと差せる馬なのに…せめてフサイチはかわしたかった」。池添は唇をかみしめた。 カワカミも、そしてフサイチも捕らえられなかったのだから言い訳の出来ない敗戦だ。上がり3F34秒4がメンバー最速だったことだけがせめてもの意地だった。「もうひとつゴール前で伸び切れなかったなあ。体重も戻って、いい具合で送り出せたのに」鶴留師も首をひねるばかり。連覇の夢が散ったと同時に最強牝馬の座も失った。 【ディアデラノビア 伸びたが3着】 中団で流れに乗ったディアデラノビアは3着。しっかり伸びたが、最後は後続の勢いに屈した。岩田&角居師コンビは、豪G1、メルボルンCに続くG1勝利はならなかった。「あまり長い脚を使えないので、我慢して。折り合っていましたし、間を割って、一回は伸びてくれたんですが…」と振り返った岩田。折り合い面に進境を見せ、道中のリズムも上々。先頭に立つ場面もあったように、今後に向けて内容の濃い走りを見せた。 【アサヒライジング 流れ乗り4着】 離れた3番手で流れに乗り、アサヒライジングは4着に奮闘。関東馬で最先着を果たした。前を行くシェルズレイ、ライラプスを見ながら、上々の手応えで直線へ。「自分の競馬はできたんだけどね…。現時点では、力の差が出たかな」と柴田善は敗北を認めた。10着の桜花賞馬キストゥヘヴンとともに、関東代表として今年の3歳路線を疾走。米G1レース2着、秋華賞2着。頂点は次の課題となった。 【アドマイヤキッス 実りある5着】 3番人気の支持を受けたアドマイヤキッス。これまでとは違って、好位追走から早めに動く形で頂点を狙ったが、5着に終わった。「いい感じでしたよ。工夫して乗ったんだけどね。上位勢は強いね。それに、千六百メートルから千八百メートルぐらいの方がいいかな」と武豊。最終調整で速い時計を出しながら、6キロ増のボディーで参戦。念願のGI制覇はならなかったが、収穫の大きなレースだった。 【ヤマニンシュクル 不利受け11着】 激しい叩き合いを演じる寸前、ヤマニンシュクルはカワカミプリンセスに寄られて、大きくバランスを崩す不利を受けた。道中の行きっぷりも良く、ゴーサインを受けるまで勢いもあった。それだけに四位は「流れにも乗れて、伸びかけたところだったからね」と、11着の結末に残念そうな表情を浮かべた。さらに、レース後には右前肢のハ行が判明。後日、精密検査を受けることになった。 |
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