菊花賞 |
キング激勝頭差で乱菊制す2007/10/21・京都競馬場 |
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激闘の末、最後の1冠を手にしたのは、四位騎乗の4番人気アサクサキングスだった。道中は好位を進んで、坂の下りでスパート。見事に乱菊を制した。四位は現役では武豊に次ぐ、2人目の牡馬クラシック3冠制覇を達成。また、管理する大久保龍師は、念願のGI初制覇。元調教師の父・正陽氏(94年ナリタブライアン)と、親子2代で菊花賞トレーナーとなった。2着は頭差でアルナスライン。1番人気のロックドゥカンブは3着に敗れた。
サービスアルナスライン(右)の追撃を振り切り菊花賞を制したアサクサキングス
【残り二百で先頭】
ダービー2着。3歳牡馬ではトップに位置するアサクサキングスの底力、そしてダービー馬・ウオッカの品格を守る四位のプライド。人馬の意地が、大輪の花を咲かせた。
2周目。勝負どころの3〜4コーナーに差し掛かったところで勝負をかけた。「最後は接戦になると思っていた。僕の馬は切れるタイプではない」と、ロングスパートを敢行。直線入り口で、先頭を行くホクトスルタンに猛然と襲い掛かり、残り二百メートルで先頭に立った。そして、外から勢いよく伸びてきたアルナスラインに自ら馬体を合わせに行き、根比べに持ち込む。「僕の馬はしぶとい」。頭差まで詰め寄られたが、左ステッキに持ち替えた四位の気合に応え、最後まで首位は譲らなかった。
鞍上の、さりげないファインプレーも光った。「前半千メートルをいかにリラックスして走らせるか」。鞍上は1番のポイントに挙げていた。そして最初の難関である1周目の1〜2コーナーで、キングスは最高のポジションにつけた。前を行く4頭から、3馬身離れた5番手。ポケットの中にすっぽり入り、がっちり折り合いをつけた。道中は馬場の内めを避けて追走。「ちょっと内めが荒れていたから」。スタミナロスを防ぎ、冷静にレースを進めた。
この勝利で自身は史上17人目、現役2人目の牡馬クラシック3冠制覇を達成したが「僕のことはいい。アサクサキングスの頑張りを称えてほしい」とパートナーの労をねぎらった。
笑顔を見せる大久保龍調教師(右)=京都競馬場
【次は古馬倒すゾ】
普段は冷静な大久保龍師も、この日ばかりは興奮気味。ダービーは2着に涙をのんだだけに「今回は絶対獲りたいと思っていた」と初GI制覇の美酒に酔った。今度はGI馬として古馬に挑む。「宝塚ではこてんぱんにやられた。夏を越して成長している。また挑戦したい」と意欲を燃やす。
気になる次走は「ファンが思っているようなレースになると思う。丈夫な馬だし、あと2戦ぐらいは大丈夫」とジャパンC(11月25日・東京)→有馬記念(12月23日・中山)を見据える。古馬、そしてウオッカへのリベンジもある。乱菊を制し、王道を突き進むキングスの野望は尽きない。
【父・正陽氏も笑顔】
アサクサキングスの優勝は、元調教師で、大久保龍師の父である大久保正陽氏(72)にとっても、うれしい勝利だった。この日はスタンドから声援。94年の3冠馬ナリタブライアンを育てた名伯楽は「ありがたいことですね。春は涙をのんでいたので、良かったんじゃないかな。馬もよく辛抱してくれました」と表情を崩した。親子2代の菊制覇は史上2組目の快挙。表彰式に向かう息子を見つけると「龍志、良かったな」と優しく声をかけていた。
【和田「理想的な競馬できたが」】
あまりにも惜しい銀メダルだった。直線でアサクサキングスとの差を一歩ずつ詰めたが、頭差届かなかった。和田は悔しさを押し殺しながら振り返った。
「ちょっとハミをかんでいた。どこかで抜けるかなと思ったけど、道中はずっとだった。その分、最後は伸びきれなかった。理想的な競馬はできたけど、ダービー2着馬は強かった。残念」。中団で思い通りのポジションは取れた。かわすかと思ったが相手が一枚上。最後は勝者をたたえた。
すみれ賞を快勝した後にヒザの骨折が判明。春のクラシックは棒に振った。しかし、復帰初戦の京都大賞典では古馬の強豪に交じり3着。地力を証明した。陣営の期待も高かったが…。
松元茂師は「運がなかったねえ」と残念がったが「でも、賞金は加算してくれたからね。4歳になったら良くなってくると思うよ」と気を取り直し、これからの活躍を楽しみにしていた。
【悔いだけが残った。】
史上4頭目となる無敗の菊花賞馬に挑んだ1番人気のロックドゥカンブ。中団やや後方だった道中の位置取りが致命傷となり、直線で猛然と追い込んだが3着まで。デビューからの最少キャリアV、南半球産馬の初GI制覇など数々の記録がかかっていたが、歴史的な勝利はならなかった。
誰よりも悔しかったのは騎乗した柴山だ。引き揚げてきた検量室で、しばらくの間、ぼうぜんとパトロールビデオを見つめた。「位置取りが後ろすぎました。スタートをモコッと出てしまいましたからね。自分から動きたくても動けなかったから」と振り返ると、最後は「悔しい。スムーズだったら…。騎手のせいで負けたようなもの」と自ちょう気味に笑うしかなかった。
05年に地方・笠松から移籍してきて3年目。菊花賞も、さらには芝三千メートル以上のレース騎乗も初めての経験だった。ただ、「力負けという感じは全然しない。負けたけど強い」と、パートナーを称えたように、馬の実力を改めて示したのも事実だ。
「(話は)ジョッキーに聞いて下さい。今後のことはまだ分かりません」と、堀師は足早に競馬場を後にした。だが、ロックにとってはまだ5戦目の競馬。この敗戦を糧に、柴山とともに大きな前進を期待したい。
皐月賞3着、ダービー7着に続き、フサイチホウオーは8着。中団で運んだが、末脚は不発に終わった。安藤勝は「前走よりは気持ちが入っていたけど、(気が)抜けなくてダラーっと行ってしまった。楽な位置を取れたけど、ずっとハミを取っていたので、最後は伸びきれなかった」と無念の様子。松田国師は「1回痛めた背腰が、目に見えないところで治りきっていなかったかも。距離も長いかもしれませんね」と肩を落としていた。
皐月賞馬ヴィクトリーは16着。課題の返し馬は無事にこなし、スタートもスムーズだったが、行きたがる面をのぞかせ、最後は失速した。10キロ増の馬体は「太くはなく、筋肉がついたもの」と話した岩田も、レースについては「4角で馬の後ろにねじ込んだときに嫌気をさしていた。やっぱり、二千メートルくらいかなあ」と振り返る。音無師も「やっぱり折り合えなかった。仕方ないけど距離の壁もあるので、二千メートルくらいを使っていこうと思う」と中距離路線を歩ませるつもりだ。
2番人気のドリームジャーニーは追い込んだが5着が精いっぱい。道中は最後方に待機。じっくりと流れに乗り、3角過ぎからポジションを上げていったが、前走のように突き抜けることはできなかった。「いい感じでレースができたんだけど。あと1Fで止まった。距離も少し、長かったね」と、武豊は振り返った。折り合い面に進境を見せ、理想的なレース運びに成功。敗れたが、今後につながる内容だった。
アサクサキングス…牡3歳。父ホワイトマズル、母クルーピアスター(母の父サンデーサイレンス)。馬主・田原慶子氏。生産者・北海道千歳 社台ファーム。戦績・10戦4勝。07年きさらぎ賞に続き重賞2勝目。総収得賞金・309、097、000円。大久保龍志調教師、四位洋文騎手ともに初勝利。