2008/6/8 東京競馬場
▼第58回安田記念 | |||
1着 | ウオッカ | 岩田 | 1:32.7 |
2着 | アルマダ | ホワイト | 3 1/2 |
3着 | エイシンドーバー | 福永 | 3/4 |
“女帝”が復活。2番人気のウオッカが直線一気にはじけた。好位から早めに抜け出すという、これまでとは違うレースぶりで後続を3馬身半差もちぎる圧勝。昨年のダービー以来、約1年ぶりの勝利を飾り、新マイル王の座に輝いた。今後は休養に入り、秋は得意の府中に照準。毎日王冠(10月12日)―天皇賞・秋(11月2日)―JC(11月30日)と王道を歩む。2着に香港のアルマダ、3着はエイシンドーバー。3連単は14万円超えの高配当だった。
ウオッカで安田記念を制した岩田はファンの声援に力強くガッツポーズで応える=東京競馬場
昨年のダービー馬が、ついに本来の輝きを取り戻した。最後の直線、岩田の左ムチがうなりを上げる。瞬く間に先頭に立ったウオッカは、ド迫力のストライドで後続をグングン突き放した。ラスト3Fはメンバー最速タイの34秒0。この瞬発力に追いつける馬はいなかった。2着アルマダに3馬身半差をつける完勝劇。鞍上が高々と左手を挙げ、完全復活をアピールした。
ラスト1Fで勝利を確信した。初コンビで見事にエスコートした岩田は笑顔で振り返る。「さすがダービー馬。直線の感触は“バキューン”でした。すごい加速。これほど直線で気持ちいい風に当たったのは(自身の手綱で宝塚記念、JCを制した)アドマイヤムーン以来」。レース前の返し馬までは半信半疑だった。しかし馬場に飛び出すと、自信を抱いた。「ゾクッとした。牝馬でこんな背中をしている馬は初めて」と能力の高さを認識した。
現在の東京芝コースは見た目以上に状態が良く、内の先行馬が残る傾向。それを踏まえて、最初から積極策に出るつもりだった。好スタートを決め、道中は3番手の内で脚をためた。「本当にいい位置で運べた」。作戦がズバリと的中して、満面の笑みを浮かべた。
【驚異の回復】
ドバイ遠征からの帰国初戦だったヴィクトリアマイルは、デビュー以来最軽量の478キロ。2着に敗れたレース後、角居師は、中2週の安田記念か、それとも間隔を取って宝塚記念に向かうかの選択を悩んだ。安田参戦にGOサインを出した決め手は、ウオッカの驚異的な回復力にあった。
牝馬として64年ぶりに制したダービー後は、まさかの7連敗。この現実に、トレーナーも歯がゆかったという。「力のあるウオッカに、迷惑をかけている思いがあった」。だがほぼ1年たって、やっと長いトンネルから脱出した。「まだモヤモヤが残っているので、ボチボチ晴れてくれれば」と言って表情を崩した。
今後は歴戦の疲れを取り除き、夏場は栗東トレセンで充電。「JRAにお願いされたとしても、宝塚記念は使いません」。角居師はジョークを交えながら、秋競馬でのさらなる飛躍を誓った。毎日王冠から天皇賞・秋、ジャパンCと王道を歩んでいく予定。久々の“美酒”に酔いしれた女帝の、新たな伝説が幕をあける。
【オーナーも驚きの強さ】
昨年のダービー以来の勝利、しかも3馬身半差の圧勝。ウオッカのあまりの強さに、谷水雄三オーナー(69)は驚きの表情を見せた。「ドバイから帰ってきて、女馬だから(普通は)ガタッとくるものだけど。スタッフが一生懸命にやってくれて、それに応えてくれた。頭が下がります」と頑張りをたたえた。宝塚記念のファン投票では、中間発表1位だが「ファンの皆さんをガッカリさせてしまいますが、ちょっと無理ですね」と夏休みに入ることを明言した。
【3着にも満足顔】
内々を巧みにさばき、9番人気エイシンドーバーが3着に食い込んだ。昨年6着からステップアップ。好リードを見せた福永は「本当は荒れた馬場は得意ではないんだけど、何とか我慢してくれた。内枠でもイメージ通りに乗れたし、力がありますよ」と、敗戦にも満足顔。小崎師は「よく走ってくれた。距離は融通が利きそう」と、秋は中距離路線への出走も示唆した。今後は休養に入る予定だ。
香港馬で最先着を果たしたのは5番人気アルマダ。2番手からしぶとく粘り込み2着に入った。「勝った馬が強い。もっといい馬場でやらせてあげたかったけど、全力は出せたし悔いはない」とホワイトの表情は晴れやかだ。「指示通りうまく走ってくれた。体調がよければ来年また来たい」とはサイズ師。愛馬が初の海外遠征で結果を残したこともあり、再来日に意欲的だった。
最終的に小差で1番人気となったスーパーホーネットだったが、見せ場なく8着に沈んだ。スタートで立ち遅れて中団からの競馬。直線ではうまく前があいたが、伸び切れなかった。「少し遅れたけど、それなりにスムーズに行けた。でも、残り1Fで脚が上がった。何を言っても言い訳です。もっとうまく乗れていれば」と藤岡佑が淡々と話せば「敗因が分からない。調教師が未熟ということ。申し訳ありません」と矢作師は頭を下げた。この後は放牧へ。1番人気は9年連続で連対を果たせなかった。
遠征が不得手なのか、5連勝中のグッドババは直線で全くはじけず17着惨敗。昨年7着を大きく下回り、100万ドル(約1億500万円)のボーナスは夢と散った。「馬が香港の時と全然違った。神経質になっていて4角ではもう手応えがなかった」とドゥルーズが肩を落とせば、シュッツ師は「今日は本物のババじゃない。イレ込んでいた。コースうんぬんも言えない。あんなに負けるとは…」と半ば放心状態だった。
ウオッカ…牝4歳。父タニノギムレット、母タニノシスター(母の父ルション)。馬主・谷水雄三氏。生産者・静岡カントリー牧場。戦績・15戦6勝(うち海外1戦0勝)。06年阪神JF、07年チューリップ賞、ダービーに続き重賞4勝目。総収得賞金・5億9601万2000円(うち海外2801万0000円)。角居勝彦調教師、岩田康誠騎手ともに初勝利。