2008/10/05 中山競馬場
▼第42回スプリンターズステークス | |||
1着 | スリープレスナイト | 上村 | 1:08.0 |
2着 | キンシャサノキセキ | 岩田 | 1 1/4 |
3着 | ビービーガルダン | 安藤勝 | クビ |
新ヒロインの誕生だ。1番人気スリープレスナイトが好位から直線で抜け出し、5連勝で秋のスプリント王に輝いた。デビュー17年目、40回目の挑戦で上村洋行騎手(34)=栗東・フリー=は涙のG1初制覇。バースデーVを飾った橋口弘次郎調教師(63)は海外遠征の可能性も明らかにした。2着は2番人気キンシャサノキセキ、3着にはビービーガルダンが入り、G1最速騎乗の三浦皇成騎手(18)=美浦・河野=のプレミアムボックスは14着に敗れた。
スプリンターズSをスリープレスナイトで制し、ガッツポーズを決める上村=中山競馬場
【40度目ついに】
17年間の思いが一気にこみ上げた。スピードとパワーでスリープレスナイトが押し切った電撃6F。最速馬の背中で初めて味わうG1制覇に、上村は涙をこらえ切れなかった。40回目の挑戦で、ようやくG1の勲章を手にした苦労人は「最高です。今まで頑張って良かった」と声を震わせた。
1番人気でG1を迎えたのは初めて。自信と信頼感が、押し寄せるプレッシャーをはねのけた。「ゲートをうまく出させてあげることだけを考えていた」。全神経を集中し、抜群のスタートを切った。外からキンシャサノセキが来ても冷静だった。「予測していた。直線に向いてからひと呼吸待って追い出そうと思っていた」。はじけるような反応に、勝利を確信した。
「これだけ自信を持って臨めるのは初めて」とレース前から話していたほど。悲運の快速馬・サイレンススズカに乗っていても、ここまでは意識できなかったという。「1番人気だったけど、当然と思っていた」と重圧を楽しんだ。橋口師も「思い描いていた通り。安心して見ていられた」と最高の騎乗をたたえた。
馬から降りた瞬間、泣き崩れるように橋口師の胸へ飛び込んだ。03年に目の病気(黄斑上ぶとう膜炎)を患い、4度に渡る手術を経験した。復帰した05年、橋口師が“チャンスを与えられるときは与えるから”と声をかけてくれた。「先生がいたからジョッキーを続けられた。ずっと起用してくれたのが今につながっている。頑張ろうという気持ちになれた」。苦しいときに背中を押してくれた。
「先生の誕生日にいい恩返しができた。幸せです」。恩師の63回目のバースデーに花を添え、ホッとした表情を見せた。師も「上村で勝った。それが一番うれしい」とほおを緩ませる。
検量室前で抱き合った同期の後藤も「競馬学校ではずばぬけて成績が良かった。彼を目標に追いかけてきた」と話す。新人最多勝にも輝いた腕達者が、苦境を乗り越えて頂点を極めた。
サイレンススズカ、アドマイヤグルーヴ、シックスセンス…多くの名馬の背中にまたがってきた。「いろんな馬に巡り会ったけど、一番しんどいときにコンビを組んだ馬。最高のパートナーです」。多くの挫折と苦しみを知った分、喜びも大きい。G1ジョッキーとしてスリープレスナイトと歩むこの先にも、数知れないくらいの栄光が待っている。
【国内敵なし!香港&ドバイ視野】
国内に敵はいない。短距離王に輝いたスリープレスナイトに、橋口師は「いい勝ち方をしてくれた。ホッとしたよ。1番人気は体に悪いな」と笑顔を見せた。今後は未定だが、海外遠征も思い描いている。「国内に大きなレースはない。香港スプリント(12月14日・シャティン)も頭にある。ダートも走るから(来春の)ドバイも頭に浮かぶ。ここまできたら千四百メートルを使うとかはしたくなくなった」と、6F戦での8連勝をたたえた。「千二百メートルのスペシャリストでいきたい」。スピードとパワーを武器に、世界の舞台も見据えて突き進んでいく。
【久美子夫人も涙】
上村夫人の久美子さんは表彰式を見届けながら、2人の子どもを腕に抱えて、あふれる涙をハンカチでぬぐっていた。レースが近づいたここ数日も、「いつもと変わりなく子どもと遊んでいました」と平常心で大一番を迎えたことを明かした。「ゴールの瞬間は声が出ませんでした。(目の病気で)苦しい時期もありましたが、勝てて本当に良かったです」と声を震わせていた。
G1初制覇を果たし、周囲の祝福に号泣
完敗だった。G1初制覇を狙ったキンシャノキセキは、春の高松宮記念に続き無念の銀メダル。「外枠だったのでスムーズに流れに乗れたし、きょうは掛かることもなかった。力は出し切れたんちゃうかな」と岩田は納得したようにうなずく。それも、勝ち馬の強さを痛感したから。「スタートも速かったし、並んでから離されてしまったもの。ダテに何連勝もしてへんわ」と勝者をたたえていた。
G1初挑戦のビービーガルダンが3着に健闘した。抜群のスタートから4番手をキープ。直線で外からスリープレスナイトには一気にかわされたが、坂を上がっていったんは2番手に上がるシーンがあり堂々の内容。だが安藤勝は「4角で反応が悪かった。前走もそうだったけど、流れが速くなったところでそういう感じになる。確実に走るんだけど、あとワンパンチ足りないね」と課題を挙げた。
新人最速G1騎乗で注目を集めた三浦のプレミアムボックスは14着に敗れた。「スタートはうまく切れたけど1頭下がってきて…。スムーズならもっといい結果だったと思います」と力を出し切れなかったことに悔しさをのぞかせたが、大一番の雰囲気にのまれることはなかった。「これだけの歓声の中で乗れて楽しかった」と最後は笑顔も見せた。また、札幌リーディングでは藤田と勝利数(22勝)で並びながら2着回数の差で惜しくも2位だった。
スリープレスナイト…牝4歳。父クロフネ、母ホワイトケイティーディド(母の父ヌレエフ)。馬主・(有)サンデーレーシング。生産者・北海道安平町 ノーザンファーム。戦績・16戦9勝。重賞・08年CBC賞、北九州記念に続き3勝目。総収得賞金・309、693、000円。橋口弘次郎調教師、上村洋行騎手ともに初勝利。