2008/11/16 京都競馬場
▼第33回エリザベス女王杯 | |||
1着 | リトルアマポーラ | ルメール | 2:12.1 |
2着 | カワカミプリンセス | 横山典 | 1 1/2 |
3着 | ベッラレイア | 秋山 | 3/4 |
ニューヒロインの誕生だ―。ルメール騎乗の4番人気リトルアマポーラが、好位追走から直線鮮やかに抜け出し快勝。今年の牝馬3冠レースでは結果を出せなかったが、初の古馬相手となった舞台で大仕事。悲願のG1タイトルを手にした。勝ちタイムは2分12秒1。1番人気のカワカミプリンセスは1馬身半差の2着。3着には2番人気のベッラレイアが入った。なお武豊騎乗の3番人気ポルトフィーノはスタート直後に落馬。競走中止となった。
ルメールの叱咤(しった)に応え、後続を振り切ったリトルアマポーラ(左)
青い瞳の助っ人が、わずか1回で答えを出した。リトルアマポーラの特徴とも言えるツンと立てた尻尾も、名手・ルメールの手にかかればあっという間に虜。柔らかな秋風を受け、軽やかに尾をなびかせながら、栄光のゴールへと飛び込んだ。「今まで(京都のG1では)2、3着止まり。今度こそ勝ちたいと思っていた」。人馬ともにG1制覇の願いがかなった。
例年、何かが起こる女王決定戦。今年も波乱の幕開けとなった。06年にはカワカミプリンセスが12着降着、07年には前売り1番人気のウオッカがレース当日に出走取消。そして今年は武豊騎乗の3番人気ポルトフィーノが、スタート直後にまさかの落馬―。スタンドが大きくどよめいた。
興奮状態のポルトフィーノは、馬群をかき分けて一気にハナへ。アマポーラは好スタートを決め、ジワッと先行集団に取りついた。乱ペース必至のレース展開―。だが名手・ルメールは沈着冷静に対処した。どっしりと構えてパートナーを4番手へ強気にリード。1番人気カワカミプリンセスの右前方を確保した。
アクシデントはあったものの、レース前からルメールの腹は決まっていた。自ら追い切りに騎乗し「スタミナ」が武器であることを確認。また過去のレースをDVDで研究。「毎回、後ろからの競馬をしていたが、中団か前につけた方がいいと思っていた」。その読みはズバリと当たった。
前のカラ馬、そして後ろの大本命馬を見ながら運べる、絶好のポジションをキープ。隊列はそのまま進み、勝負どころからは馬なりで先頭をうかがった。
そしていざ直線へ。スーパールーキー・三浦皇成騎乗のビエンナーレをあっさりとかわし去ると、ゴーサインに瞬時に反応。馬場の真ん中を堂々と通り、外から詰め寄るカワカミ、ベッラレイアの追撃を見事に封じ込めた。「スタミナがあって、大きなストライド。とてもいいハートを持っている」。牝馬クラシック3冠では不発に終わった末脚を、古馬混合のここで余すことなく発揮。また低レベルともささやかれていた3歳世代の意地を見せた。
自ら手掛けたアグネスタキオン産駒でのV。長浜師の喜びもひとしおだ。「体調には自信があったが、ルメールが完ぺきに乗ってくれた。我々が思っている理想の競馬になった」。ひと夏越して、一番成長したのは精神面。「少しずつ“いい女”になってきている」と愛馬を褒めたたえた。
今後については「まだ3歳。大事に育てればもっと活躍してくれる。じっくりと考えたい」と明言を避けたが、最強世代と謳(うた)われる4歳牝馬との対決も十分あり得る。また1頭、強い牝馬のG1馬が誕生した。
【社台ファーム代表・吉田照哉氏も笑顔】
会心の勝利に、社台ファーム代表の吉田照哉氏から笑顔がこぼれた。「4角先頭と強い内容でしたね。春は馬が弱くて体調を維持するのが精いっぱいだったが、夏を越してしっかりした」とたくましく成長したアマポーラをたたえた。社台スタリオンSにけい養されているアグネスタキオンの産駒は、これで今年のG1を4勝の快進撃。「サンデーサイレンスがいなくなり寂しかったが、アグネスタキオンが抜けた存在になってくれました」と話した。
【復活示した…有馬出走だ】
降着から2年―。悲劇のヒロインは無念を晴らせなかった。カワカミプリンセスは2着。直線は外めを伸びたが、勝ち馬をかわすことはできなかった。「残念でした。ジョッキーが最高のレースをしてくれて、馬も最高の出来だった。あれで負けたら納得がいくでしょう。斤量も2キロ差あったから」。西浦師はサバサバとした表情で振り返った。
勝ち馬を意識してレースを運んだ。横山典も「相手が悪かった。負けるならこれ(リトルアマポーラ)かなと思っていたけど…。嫌な予感が当たった」と唇をかみしめた。それでも、骨折やトモの筋肉痛などを強い精神力で乗り越えた。「一時の不振を思えばよく走っているんだから」。鞍上は復活を遂げた5歳牝馬をねぎらった。
Vはつかめなかったが力は示した。「状態を見て、オーナーと相談し、有馬記念へ向かっていきたい」。横山典から騎乗受諾の返事をもらったトレーナーはグランプリへと気持ちを切り替える。一度はそっぽを向いた勝利の女神。中山の舞台で今度こそ、ほほ笑ませてみせる。
2番人気のベッラレイアは3着。上がり3Fはメンバー中2番目に速い脚を使ったが、前の2頭には届かなかった。秋山は開口一番「具合、良かったわ」と出来に感心した。気にしていた雨も上がり、良馬場でやれた。「(馬場が)悪くならなかったし、頑張っていたけどね。上位2頭は強いね。でも、スタッフがいい仕上げをしてくれた。また頑張ります」。確かな手応えをつかみ、次のステージへとつなげる。
昨年の秋華賞2着馬、レインダンスは5着。最強世代の一角を担った逸材が本番で意地を見せた。心配していた雨も上がり、道中は後方のインを追走。直線も最内をつき、最後までしぶとく抵抗した。「内枠((1)番)だったので、ラチ沿いを走らせた。(状態が)悪い時は直線でバタバタになったが、踏ん張ってくれた」と武幸は、一時のスランプを脱したレインをねぎらった。休養明け2戦が復活を予感させる内容。今後が楽しみになった。
スーパールーキー三浦は3度目のG1騎乗。ビエンナーレは14着に敗れた。2番手から積極的に攻めたが、最後は馬群に飲み込まれた。「一瞬はオッと思った。切れ味では勝負にならないと思っていたので、早めに動いたけどね」と冷静に振り返った。スタミナ自慢のこの馬にとっては二千二百メートルでも短いのかもしれない。「ステイヤーを狙っていますので。楽に行き脚がつくようになって、反応が良くなっている。やはりG1はいいですね」と大敗にも暗い表情はなかった。
リトルアマポーラ…牝3歳。父アグネスタキオン、母リトルハーモニー(母の父コマンダーインチーフ)。馬主・(有)社台レースホース。生産者・北海道白老 (有)社台コーポレーション白老ファーム。戦績・8戦4勝。重賞・08年デイリー杯クイーンCに続いて2勝目。総収得賞金161、436、000円。長浜博之調教師、ルメール騎手ともに初勝利。