2008/12/07 阪神競馬場
▼第9回ジャパンCダート | |||
1着 | カネヒキリ | ルメール | 1:49.2 |
2着 | メイショウトウコン | 藤田 | クビ |
3着 | ヴァーミリアン | 岩田 | アタマ |
“天才”にブランクは関係なかった。2度に渡る屈腱炎発症を克服し、カネヒキリがよみがえった。名手ルメールに導かれ、休養中に国内無敵を誇ったヴァーミリアンを撃破。3年ぶりの制覇&G15勝目を飾り、ダート王者の座を奪回した。国内G17連勝をかけて臨んだ1番人気のヴァーミリアンは、やや反応が鈍く3着まで。2着にメイショウトウコンが強襲し、3歳の砂王者サクセスブロッケンは8着に敗れた。
メイショウトウコン(右)、ヴァーミリアン(中)の追撃を抑えきったカネヒキリ=阪神競馬場
鮮やかな復活劇だった。国内G16連勝中だったヴァーミリアンを筆頭に国内外の砂の猛者が集った一戦を制したのは、かつてのダート王カネヒキリ。3年ぶりのJCダート制覇、G15勝目のゴールを貫いた。
府中から仁川へと舞台を変えた大一番。名手ルメールの、完ぺきなまでのエスコートが勝因のひとつだった。スタートを決め、5番手でじっくりと勝負の時を待った。競馬が動いたのは3角過ぎ。ヴァーミリアンが外から一気に進出を開始するなか、カネヒキリは内に進路を取ると4角で前に1頭分あいたスペースに潜り込む。ラスト1Fで先頭に立つと、鞍上の左ムチに応えて外のメイショウトウコン、ヴァーミリアンの追撃をしのぎ切ってみせた。
連戦連勝を誇っていた当時は“砂のディープインパクト”とも称された、王者の見事な復権。引き揚げてきたルメールは金子真人オーナーと抱き合った。「この勝負服で勝てたのはうれしい」。自身が日本最強馬だと思っているという、G17勝のディープインパクトと同じ勝負服での勝利に興奮を隠せない。テン乗りだったが、VTRで過去のレースはチェック済み。ケイコにもまたがり、確かな手応えをつかんでいた。
「角居師がしっかりと調教してくれていたので、自信を持って乗れた。距離も千八百メートルがベストだと(主戦の)武豊と話していたからね」。エリザベス女王杯のリトルアマポーラに続くこの秋2度目の初コンビでのG1制覇は、完ぺきな情報収集も原動力だった。
今年、4度目のG1勝利を飾った角居師も感慨深げだ。「引退が何度も頭をよぎった」。05年にJRA最優秀ダート馬のタイトルを獲得。だが翌年、右前浅屈腱炎に見舞われた。復帰を目指していた1年後の函館で調教中に2度目の発症。茨城県の水野馬事センターで2度目の手術を受けた。2年4カ月もの休養を挟んでのG1制覇は、JRA記録。陣営の必死の努力が最高の形で実を結んだ。
「前走よりもはるかに落ち着いていた。走れる筋肉になっていたね。よくぞ復活してくれた」と指揮官は喜んだ。注目の次走は「1回、1回が勝負。まずは脚元をチェックして、オーナーと相談してから」と口元を引き締める。いずれにしても、海外遠征は封印して国内戦に専念する構え。砂王者の最強伝説が、再び幕を開けた。
【「引退考えていなかった」】
「引退考えていなかった」 愛馬カネヒキリの復活劇に、オーナーの金子真人氏は感無量の様子。「泣かないように努力はしていました。(手術も)2度でしたからね。ディープ(インパクト)とはまた別の喜び」と、勝利の余韻に浸った。屈腱炎により2年4カ月もの長期休養を余儀なくされたが「引退は考えていなかった。とにかく復帰させたかった」。復活を信じていた周囲の執念と努力が、大舞台で見事に実を結んだ。
【阪神・“カネ”本でレイズ岩村ズバリ】
JCダートのプレゼンターを務めたMLBタンパベイ・レイズの岩村明憲内野手(29)が、阪神競馬場で昼に行われたトークショーで「◎カネヒキリ」と予想。見事に単勝(980円)を的中し勝負強さを見せた。昨年のJC以来、競馬場のゲスト出演は2回目。「阪神と言えば“金”本さんがいますからね」と“カネ”ヒキリのVにしてやったりの表情。「ゴール前はガッツポーズでした。ファンの前で公言した予想が当たってうれしい」と語った。
ルメール(右)、金子オーナー(左)と記念撮影をするレイズ・岩村明憲(中)
最後方から進む“正攻法”を久々に敢行。広い舞台で自身の本来のスタイルを貫いたメイショウトウコンが、大外からメンバー最速の3F35秒9の末脚で2着に強襲した。地元・関西圏のレースで馬体は前走比2キロ減とキープ。内容の濃い銀メダルだった。しかし、わずか頭差及ばなかった結果に「ゲートは出ないと思っていたしね。この馬のペースを守ったよ。はまったと思ったけどなあ…。着差が着差だけに悔しい」と、藤田は残念そうだった。
1番人気ヴァーミリアンは激しい追い比べの末に3着に惜敗。国内G1連勝は「6」でストップした。コーナリングがぎごちない米国馬の影響を受けて、1―2角の位置取りが中団より後ろに。「折り合いもついて、向正面で外に出すことはできたんですが…。申し訳ありません」と、今回がテン乗りだった岩田は肩を落とした。次走は未定。東京大賞典(29日・大井)への参戦を含めて「今後のことは馬の様子を見て決めたい」と石坂師は話した。
カネヒキリ…牡6歳。父フジキセキ、母ライフアウトゼア(母の父デピュティミニスター)。馬主・金子真人ホールディングス(株)。生産者・早来 ノーザンファーム。戦績・16戦9勝(うち地方3戦2勝、海外1戦0勝)。総収得賞金・611、624、700円(うち地方124、500、000円、海外35、325、700円)。05年ユニコーンS、JCダート、ジャパンダートダービー、ダービーグランプリ、06年フェブラリーSに続き重賞6勝目。角居勝彦調教師は05年に続き2勝目、C・ルメール騎手は初勝利。