2008/12/28 中山競馬場
▼第53回有馬記念 | |||
1着 | ダイワスカーレット | 安藤勝 | 2:31.5 |
2着 | アドマイヤモナーク | 川田 | 1 3/4 |
3着 | エアシェイディ | 後藤 | 3/4 |
夢は世界へ―。混戦の2着争いを尻目に、1番人気のダイワスカーレットが圧倒的な強さを発揮。1馬身3/4差で逃げ切り、71年トウメイ以来37年ぶり史上4頭目となる牝馬Vを達成した。レース後には来年の海外遠征プランが浮上。詳細は検討中だが、仏G1・凱旋門賞などを候補に、目標を3戦に絞る予定だ。日本競馬界が誇る希代の名牝が、世界の超一流馬に真っ向勝負を挑む。
有馬記念を圧勝したダイワスカーレット、鞍上の安藤勝もゴール前に勝利を確信し、ガッツポーズ=中山競馬場
スピードで、力でねじ伏せた。牝馬として37年ぶり、ダイワスカーレットが年末のグランプリを制した。好スタートから、何も無理することなく先頭へ。4コーナーで直後に殺到したライバルを尻目に、直線は余裕を持ってスパート。2着アドマイヤモナークに1馬身3/4差をつける完勝だった。
「なんて言ったらいいのか…。(レース前から)きょうのダイワスカーレットは終始、緊張するわけでもなく、のんびりするわけでもなく、遠くを見つめてレースをイメージしているようだった」。松田国師は、その精神力の強さに触れながら、しみじみと勝利の味をかみしめた。
そしてエスコートした安藤勝の好騎乗を絶賛した。「いいレースをしてくれた。素晴らしいペース配分で、位置取りもナイス。完ぺきな仕事ぶりでした」。7カ月ぶりだった天皇賞・秋は、レース前からテンションが高く、厳しい流れにもなり鼻差2着に敗れた。この中間はテンションが上がらないように工夫して調整。馬場入りの練習なども行った。執念が実った今回は後続に影すら踏ませない完勝劇。昨年2着のリベンジを果たした。
08年のラストランで日本の頂点に立った。そして09年は、世界をターゲットにする。有馬記念のレース前から、来年の海外遠征を強く意識していた松田国師。「相当強いパフォーマンスをしないと」―。胸の内にあるハードルは、高めに設定されていたが、自ら“ゴーサイン”だ。「まだ、オーナーの了承は得ていないが、海外なら3戦できる。3つ勝ちたいですし、そのためには、国内で1戦するか、海外の前哨戦を1戦するか、今はリサーチしています」。世界の超一流馬との対決へ準備を進めていく。
これでG14勝、通算成績も12戦8勝、2着4回。最強牝馬世代の代表として、世界へと雄飛する。生産者で社台ファーム代表の吉田照哉氏(61)は「ドバイ遠征の話もあるけど、わたし自身は欧州のG1に行きたい。昔、馬を連れて行ったときに鼻で笑われた悔しさが忘れられないんです。サンデーサイレンス系の馬で欧州G1を勝ちたい」と力強く話した。世界最高峰のフランス・凱旋門賞などを視野に、遠征を模索していく。
「この世代の牝馬はたくさんの牡馬と戦って結果を出している。強い世代でもまれてきたのが、この馬の強さなのでしょう」と松田国師。来年はその速さで、強さで、たくましさで世界を魅了する。
【大城オーナーは「半々」】
ダイワスカーレットのオーナー・大城敬三氏(85)は、周囲の祝福と握手攻めに笑顔で応対。「馬も強いけど、松田国師、安藤騎手、斎藤厩務員のおかげです。信頼関係は100%を超えていますよ」とスタッフの結束力をたたえた。海外遠征については「わたしは半々です。行きたい気持ちもありますが、国内のファンの皆さんにスカーレットをお見せしたい気持ちもありますしね」と、明言を避けた。
力強く、鮮やか―。ダイワスカーレットが後続を寄せつけず、完全無欠の逃げ切りを決めた。圧倒的な強さに、スキのないリードでVへ導いた安藤勝も能力の高さを絶賛するばかりだった。積極策で臨んだメイショウサムソンは直線で失速、ラストランを勝利で飾れなかった。2着に最低14番人気のアドマイヤモナークが強襲、3着は10番人気エアシェイディで、3連単は98万5580円の高配当となった。
13頭を引き連れ、中山の急坂を駆け上がるダイワスカーレット
【本当に強い】
希代の名牝のスピードを、どの馬も止められなかった。ダイワスカーレットは好発を決めて自然とハナへ。絶妙のペース配分でレースの流れを支配、その時点で勝利は決まったも同然だった。先頭で直線に向くと、自慢の“2段ロケット”発射で後続を引き離す。最後までセーフティーリードを保ったまま、危なげなく4度目のG1制覇のゴールを駆け抜けた。安藤勝は「本当に強い」と、パートナーをたたえた。
【気配違った】
前走とは明らかに気配が違った。7カ月ぶりの天皇賞・秋はイレ込みが激しく、自分のリズムで走れなかった。だが今回は堂々としたもの。「全然違って落ち着いていた。返し馬から安心感があった」。本来の姿に戻ったことを実感して、自然と自信もみなぎった。「逃げ馬もいなかったので、(ハナに)行く方が安全かなと思った」と持ち味を発揮するだけだった。
道中は余裕を持ったレース運び。「自分のペースで行っているなと感じた。あまり遅いペースにはしたくなかったし、3角でも反応があった。しまいは追ってから、もうひと踏ん張りがある馬なので」。後続に脚を使わせ、1馬身3/4差で完勝。「(後ろが)早めに動いてくるのは分かっていたけど、二の脚があるから何とか頑張ってくれるだろうとね」。すべて名手のイメージ通りだった。
【押し切った】
国内の現役馬ではずば抜けた能力を証明。「正直、力で押し切った。しなやかにスピードに乗って、最後まで伸びる。素晴らしい馬。まだまだ先があるので」とさらなる活躍を期待する。海外遠征のプランが浮上したことにも触れ「(頼まれれば)行きたいですね」と楽しみにした。絶妙な呼吸を誇る人馬の進撃はまだまだ続く。
健闘も2、3着に終わったアドマイヤモナーク(右)とエアシェイディ
【最下位人気馬が大外強襲!98万馬券助演ショー】
1番人気馬の次にゴール板を駆け抜けたのは、14頭立て14番人気のアドマイヤモナーク。終始、最後方にいた川田騎乗の伏兵馬が、レース史上最高配当3連単98万5580円を生み出す大波乱の使者となった。
「ゲートを出たときからじっくり構えようと思ってました。一番後ろに離されていたけど、気分よく走っていましたよ」。逃げる本命馬を目がけ、勝負どころで仕掛けられる他馬の動きにも、皐月賞のキャプテントゥーレでG1ジョッキーの仲間入りを果たした23歳の若武者は慌てなかった。
最後の直線を向いて大外に持ち出すと、最後方からこん身の力で手綱を押しまくる。最後はダイワに届かなかったが、脚色の鈍った有力馬をすべてかわし去りゴールした。敗れたとはいえ川田の表情に悔しさはない。むしろパートナーの力を出し切った達成感さえうかがえた。「着差以上にダイワが強かったです」。そう言って勝ち馬をたたえた。
松田博師も「よく走ってくれたな。(前に)行こうと思っても行けない馬だから、こんな展開がかえっていい方に出たんだろう」と期待以上の頑張りに笑顔を見せた。次走は「馬の様子を見てから」になるが、日経新春杯(1月18日・京都)が有力。厩舎の看板馬である2歳女王ブエナビスタほどの華やかさはないものの、明け8歳馬のベテランは、その末脚で09年のG1戦線もにぎわしてくれそうだ。
【シェイディ猛追3着】
馬場の真ん中を猛然と追い込んだ10番人気エアシェイディが3着。「今日は(調子のバロメーターの)オシッコが出なかったけど、これだけはじけたのは成長の証し。喜んでいいのかな」と後藤は悔しさをにじませせながらも相棒を褒めた。ゴール前はドリームジャーニーを鼻差競り落としてのもの。「残念だけど、精神面は確実に進歩している。来年になったらまだまだ進歩すると思うよ」とは伊藤正師。遅咲きの7歳馬が、勝負の09年に思いをはせた。
【ドリームジャーニー 大健闘の4着】
直線勝負に徹したドリームジャーニーは4着に敗れた。道中は後方の馬込みの中で待機し、4コーナー手前でスパート。外にアドマイヤモナークが来ていたので、進路を内に取り、狭いところを突っ込んできた。池添は「アドマイヤが来たので内へ行ったが、狭いところをよく伸びてきてくれた。来年はタイトルを獲らせてあげたい」とパートナーを称えた。
【スクリーンヒーロー 収穫ありの5着】
この秋、最大の上がり馬となった3番人気スクリーンヒーローは5着。中団から真っ先にスカーレットを捕らえに行ったが、坂を上がって力尽きた。「勝ちに行ったけど、勝った馬が強かったね。馬が坂を嫌がっていたみたいだ」とデムーロ。開業1年目で初のグランプリを経験した鹿戸雄師も「(スカーレットを)負かしに行った競馬だからね。それでも5着。収穫はあったよ」と納得の表情。来春の目標は天皇賞になる予定で、本格的に古馬の王道を歩む。
【アルナスライン 位置取り失敗6着】
いつもの競馬ができなかったアルナスラインは6着に敗れた。好位抜け出しがこの馬のパターンだが、後方の苦しい位置取りになってしまった。ペリエは「みんながスカーレットを意識して、ペースが速くなり、ついて行けなかった」とレースを振り返る。それでも最後は伸びていただけに「今日は位置取りの差が出てしまった」と敗因を語った。
レース後、高橋成師から優しく撫でてもらうメイショウサムソン
【前半イメージ通りも失速…】
最後を勝利で飾ることはできなかった。メイショウサムソンは8着に敗れた。道中は先手を奪ったダイワスカーレットを見ながら運んだが、3角から早々と鞍上の手が動き、直線では失速した。
勝ちにこだわったレースだった。「スタートも良かったし、きついレースを覚悟して先行しようと思った」。武豊は前半はイメージ通りだったという。ただ、反応が悪かった。「絶好調のころと比べると、迫力が少し足りなかった。冬場も良くないのかも」。昨年と同じ着順に肩を落とした。
高橋成師はサバサバとした表情で人馬を出迎えた。「勝とうという意識で乗っているんだから仕方がない。2着を取ろうという競馬じゃないからね」とうなずいた。G14勝を挙げ、日本の競馬をけん引。今年は海も渡った。ユタカも「トップホースとして頑張ってきた。最後を飾らせてやりたかったけど…。ご苦労さまと言いたい」とパートナーをねぎらった。
1月4日には京都競馬場で引退式が行われる。「無事に終えることができて良かった。引退式まであと1週間、今度はゆったりとした気持ちで見られる」。指揮官はホッとした表情を見せた。夢は4年後の12年へ―。グランプリ制覇は血を受け継ぐ産駒に託される。
見せ場なく敗れたマツリダゴッホから鞍をおろす蛯名
【魔さかの12着】
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。特に有馬記念は、われわれ関係者だけでなく、馬券を買うファンにとっても、1年をいい形で締めくくって、新年を迎えようと力が入るレース。マツリダゴッホを応援してくれた方々には返す返すも申し訳ない。
レースプランはスタートしてすぐ、最初のコーナーで崩壊した。内の馬に外に張り出されて、立て直して内に入れようと思ったら、すぐまた別の馬に内から張り出された。結局、後ろから3番手の位置に。それが馬群の内なら、縫うように上がっていくこともできるけど、外だったから…仕掛けてポジションを取りにいけば、掛かってしまう恐れもあった。
本当はダイワスカーレットの視界に入らない位置から、一気にかわす作戦だったんだ。位置取りも予定外だったけど、終始、外々を回らされたことで、脚をためるところがなかった。2周目の3角過ぎから追い上げていったけど、もう4角では手応えが怪しかった。
ひと言で流れに乗れなかった。型にハマった時はとんでもなく強い勝ち方をするけど、その“型”に持ち込むことができなかった。順調に来ていい状態だったけど、うなるような出来だった去年までには至ってなかったのも事実。それでも悪いのはすべてオレ。消極的だった点は否めない。
残念ながら08年は後味の悪い終わり方になってしまった。ファンにも大きな借りをつくってしまったね。この借りは必ず返していく。まずはオペラブラーボで臨む中山金杯。勝つチャンスのある馬だし、何としても09年をいい形でスタートしたいと思っている。
【国枝師動揺隠せず】
検量室へ向かう国枝師は言葉が続かない。「あの位置じゃあ…あそこからでは…ね」。パトロールビデオを見終え、少し心を落ち着けてから、再び報道陣の前に現れると「外へ張り出されるような格好で、馬がその気になってしまい、怒りながら走っていた。昨年とは全然違うよ」。連覇をかけて挑んだ戦いは12着。しかし、力負けではないだけにやりきれない思いが残る。「また来年に向けて頑張ります」と言うのが精いっぱいだった。
ダイワスカーレット…牝4歳。父アグネスタキオン、母スカーレットブーケ(母の父ノーザンテースト)。馬主・大城敬三氏。生産者・千歳 社台ファーム。戦績・12戦8勝。重賞・07年桜花賞、ローズS、秋華賞、エリザベス女王杯、08年大阪杯に続き6勝目。総収得賞金・786,685,000円。松田国英調教師、安藤勝己騎手ともに初勝利。