2009/11/01 東京競馬場
▼第140回天皇賞(秋)・G1 | |||
1着 | カンパニー | 横山典弘 | 1:57.2 |
2着 | スクリーンヒーロー | 北村宏司 | 1 3/4 |
3着 | ウォッカ | 武 豊 | 首 |
府中の直線で“おじさんパワー”がサク裂した!横山典に導かれた5番人気の古豪カンパニーが、直線半ばで抜け出して快勝。2着スクリーンヒーローに1馬身3/4差をつけ、13度目のG1挑戦で悲願のビッグタイトルを手にした。8歳馬によるG1勝利はJRA史上初。鞍上にとっても、これが秋の天皇賞初制覇となった。1番人気に推されたウオッカは、2着馬から首差の3着。昨年に続く連覇はならなかった。
カンパニーで秋の天皇賞を制し指を突き上げる横山典
【一番の出来】
カンパニーが先頭でゴールした瞬間、すべての思いが高々と掲げられた横山典の右手に込められていた。
「ついにやった!」
史上初の8歳馬によるG1制覇。G1・13回目の挑戦で、ついにつかんだ悲願のビッグタイトル。そして、横山典にとっては実に20回目となる天皇賞・秋での騎乗。これまで4度も2着に泣いてきただけに、このレースにかける意気込みは並々ならぬものがあった。
「何度も悔しさを味わってきたからね。それにしても、きょうのカンパニーはとんでもない出来だった。これまでオレが乗った中で一番。スタッフの仕上げのおかげ。8歳だけど、まだまだ良くなりそうだよ」。
ゴールしたあとも、なかなかテンションが収まらず、なんとかなだめてウイニングランを終え、検量室前に戻ってくると、「スゴイ、お前はスゴイわ」とパートナーにねぎらいの言葉をかける。08年3月の中山記念で初めてコンビを組んだときから、「G1を勝つ力のある馬だよ」と公言してはばからなかった“相棒”のG1制覇に、喜びを爆発させた。
レース運びも、まさにパーフェクト。スムーズなスタートから(3)番枠を利して、中団のインのポジションを確保した。「きょうはウオッカのことよりも、自分の馬のリズムで走らせることだけを考えていた。スムーズに流れに乗れたね」。絶好の手応えのまま直線を向き、あとはスパートのタイミングを図るだけ。抜け出しを狙ったスクリーンヒーローの背後につけ、残り250メートルで外に持ち出し右ムチを連打。瞬く間に先頭に躍り出て、後続を寄せ付けずフィニッシュ。上がり3Fはメンバー最速タイの32秒9。会心の騎乗だった。
【マイルCSへ】
勝利を見届けた音無師も感慨深げ。「これまで運がなかっただけ。ずっとG1を勝てる馬だと信じてやってきたから、本当にうれしい」と喜びを素直に表現した。このあとは予定どおりマイルCS(22日・京都)へ。古馬の頂点に輝いた横山典&カンパニーが、次の勲章を目指して淀の舞台に立つ。
【オーナー夫婦で春・秋の盾制覇 「鳥肌が立ちました」】
思い入れの強い血統馬での勝利に、近藤英子オーナー(67)は感激の表情で表彰式に臨んだ。「本当にうれしいです。ゴール前は鳥肌が立ちました」と歓喜の瞬間を振り返った。父のミラクルアドマイヤは現役時代1勝しか挙げられなかったが、オーナーたっての願いで種牡馬入りした経緯があった。それだけに「丈夫で長く走り続けてくれる。本当に馬主孝行の馬です」と、8歳馬の頑張りに喜びもひとしおだ。
夫の利一氏は昨春にアドマイヤジュピタで天皇賞を制しており、夫婦での春秋制覇を達成。「自分が勝ったことのようにうれしい」と喜色満面。花束を観客席に投げ入れるパフォーマンスを見せるなど上機嫌だった。
ウオッカ(右端)らの追い込みをねじ伏せ優勝したカンパニー(左端)
ブリンカー効果 1馬身3/4という着差だけを取れば完敗。それでも陣営は、2着という結果に対して一様に満足げな表情を浮かべた。昨年のジャパンCを快勝した府中で、スクリーンヒーローがよみがえった。
奮闘の大きな原動力となったのは、初装着したブリンカー。前進意欲と集中力を生む馬具の効果で抜群のスタートを決めると3、4番手で流れに乗る。「後ろと自分との脚を計りながら、1歩早く(アクセルを)踏んで行った。やる気になっていて、ブリンカーは効いていたね」と北村宏。ゴール前はウオッカの強襲を首差しのいで、7番人気の低評価に反発した。
目標はもともと、次走のジャパンC。4カ月ぶりを叩いた上積みは相当見込める。「楽しみになったね。ブリンカーは、次は外す予定」と鹿戸雄師。鞍上には昨年Vへ導いたデムーロを起用するプランもあり、期待が高まる。
ゴールが近づくほどに悲鳴が交じった大きな歓声が、府中の杜に響きわたった。1番人気のウオッカは3着。牝馬による初の秋の天皇賞連覇と、JRA・G1勝利最多タイ(7勝)の記録達成はかなわなかった。
多くの報道陣に囲まれた武豊は「完敗です」と第一声を上げた。スタートして、リズムを大事にした人馬はゆっくりとポジションを後方へ。カンパニーを1馬身半ほど前に見る形でレースは進んだ。1000メートル通過が59秒8と、G1としては緩やかな流れ。勝負は最後の切れ味勝負に持ち込まれる。スパートをかけた勝ち馬を追いかけるように馬群を縫い、ラストは内に進路を切り変えたが、その差は詰まるどころか、スクリーンヒーローにも先着を許した。
上がり3F32秒9の末脚は勝ち馬と並んで最速タイ。「最後の脚は安田記念(3F35秒7)どころではなかったが、追いつけなかった。状態は良かったし、折り合いもついていいレースはできた。最後はカンパニーと同じ脚になってしまった」。自身も秋の盾3連覇を狙った鞍上はレースを振り返り、勝者をたたえた。
角居師も静かに口を開いた。「前に行く馬がいるからとは(武豊と)話していた。はじけているが、ほかにもはじける馬がいた。いいポジションで、いい競馬で負けた。完敗と言うしかないですね」と敗戦を受け止めるしかなかった。
最悪引退も 規定路線として次走はジャパンC(29日・東京)を予定していたが、次走について問われた指揮官は「あまり負けるのもどうかという気もしますね。1人では決められないことですが…」といったん白紙に。最悪このまま引退の可能性もにおわせた。今後については、近日中にオーナーサイドと話し合われることになりそうだ。
直線で伸びてきたオウケンブルースリは4着が精いっぱい。だが、今回は未勝利戦以来の2000メートル戦だっただけに、内田博は「負けはしたけれど、二千でも問題はなかった」と今後への手応えは感じ取った様子だ。次走は昨年5着に敗れたジャパンCを予定。「次が楽しみ。このままの状態でいけば、ばん回できると思う」と国際G1での巻き返しを誓っていた。
G1初挑戦となった府中巧者のシンゲンは、中団からしぶとさを発揮したものの、最後は切れに屈して5着に敗れた。藤田は「瞬発力勝負になってしまったからね。道中は理想通りに運べたが、この上がりでは」と敗因を分析した。1、3着馬が32秒台の末脚をくり出した上がり勝負の競馬で、不向きな展開に泣かされた。次はジャパンCを予定している。
カンパニー…牡8歳。父ミラクルアドマイヤ、母ブリリアントベリー(母の父ノーザンテースト)。馬主・近藤英子氏。生産者・北海道安平町 ノーザンファーム。戦績・34戦11勝。重賞・05年京阪杯、06年大阪杯、07年関屋記念、08年中山記念、マイラーズC、09年中山記念、毎日王冠に続き8勝目。総収得賞金・835、540、000円。音無秀孝調教師は初勝利、横山典弘騎手は96年(春)サクラローレル、04年(春)イングランディーレに続き3勝目。