日本ダービー・G1

ロジユニ

頂点

2009/5/31 東京競馬場

▼第76回日本ダービー
1着 ロジユニヴァース 横山典弘 2:33.7
2着 リーチザクラウン 武豊
3着 アントニオバローズ 角田晃一 アタマ

 40年ぶりの不良馬場、雨中の決戦を制して、06年生まれのサラブレッド7、768頭の頂点に立ったのはロジユニヴァースだった。皐月賞大敗からの巻き返しV。15回目の挑戦で栄誉を勝ち取った横山典弘騎手(41)=美浦・フリー=は、関東現役騎手で唯一のダービージョッキーとなった。関東馬の勝利は97年サニーブライアン以来、12年ぶり。また、03年ネオユニヴァースに続く父子制覇も達成した。その一方で、1番人気に推された皐月賞馬アンライバルドは12着に敗れた。

写真・ロジユニヴァース

リーチザクラウンらの追撃を抑え先頭でゴールに向かうロジユニヴァース(右)

24年15回目挑戦で横山典

歓喜、歓喜のダービー初制覇

 

【ムチ連打!4馬身差完勝「実感わかない」】

 

 夢見心地の表彰式。優勝旗を手にした横山典は、満面の笑みで高々と掲げたあと、重みを味わうように、しみじみとそれをじっと見つめ続けた。


 最後の直線、残り四百メートル。ダービー制覇への執念が人馬を突き動かした。リーチザクラウンと、内ラチとの間にあいた1頭分あるかないかのスペース。リーチの鞍上は、これまで何度も苦杯をなめさせられてきた武豊だ。外にはじくように間をこじあけると、あとはただただ必死にムチを連打して追いまくった。終わってみれば4馬身差の完勝。それでも「ゴールまで勝利を確信できなかった」ほど、我を忘れていた。


 自信はなかった。「調子が本当に良くないと思っていた。20年以上も乗っていて、状態が悪くて勝てるほどG1は甘くはないのは分かっていたから」。レース1週前の追い切りにまたがった直後には、「良くない。何とか気持ちは切れていないが…」と語り、大一番を前にしても気勢は上がらなかった。


 そこからはい上がっての大勝利。「厩舎スタッフに本当に感謝したい。信用できなかったことは馬に申し訳なかった。この勝利は馬の生命力のなせる業」と謝辞を述べた。ウイニングランを終えた馬上ではヘルメットをとってスタンドに一礼。「何度も迷惑をかけていたし、乗ってる自分が自信がないのに、お客さんは人気にしてくれた」。断然人気に推された皐月賞で大敗。それでも2番人気に推してくれたファンへの感謝の気持ちだった。


 これまで2着3回。ダービー挑戦15回目での大願成就だ。デビュー5年目、自信満々で臨んだ90年のメジロライアンの銀メダルでは、その厳しさをこれでもかと味わった。03年のゼンノロブロイで2度目の2着を味わったあとには、大好きだった酒を控え、同時に始めた禁煙は今も続いている。すべては「あと少しでダービーが勝てるってとこで追い負けたくない」と決断したことだった。


 「雨も味方したし、勝つ時ってのはこんなもの。これだけの西高東低のなかで、自分が手掛けてきた関東馬で勝てたのは大きい。でも、まだ実感はわかないな。(昨年連覇した)四位に“勝っても何も変わらないな”って冗談で言ったんだ」。そんなことはない。浴びるほど祝杯をあげながら、じっくりその味をかみしめればいい。



写真・麻生首、相佐藤浩、市横山典

麻生首相(左)と佐藤浩市(右)から祝福される横山典


【麻生首相もノリノリ】


 麻生太郎内閣総理大臣が東京競馬場でダービーを観戦。「10万人を超える皆様と一緒になって見るのは、一体感があり気持ち良かったです」とライブでの観戦を楽しんだ。そして、英国のチャーチル元首相の言葉を引用し「“ダービー馬のオーナーになるのは一国の首相になるより難しい”というのが、改めてその通りだと思いました」とにこやかに話した。

 

【パパの勇姿に息子は涙 】

 

 横山典の長男で、JRA競馬学校騎手課程2年生の和生くん(16)は、研修のため競馬場でレースを観戦。手に握られたレーシングプログラムはぐちゃぐちゃに。「初めてダービーを生で見て勝ってくれた。本当にうれしい。これまで歯がゆい思いをしてきましたから。(父が)大きな目標になりました」と、うっすらと目に涙を浮かべていた。順調なら再来年3月に、JRAでは初の父子3代ジョッキーとしてデビューを迎える予定だ。

 

 

リーチザクラウン

戦いを終え、脚元をケアするリーチザクラウン



リーチザクラウン リーチ最後にアガれず…「勝ちたかった」2着 


 最後に力尽きた。リーチザクラウンは2着に終わった。逃げるジョーカプチーノが4角で失速し、直線に入って早々と先頭へ。押し切りを図ろうとしたが、内からロジユニヴァースにかわされ万事休す。最後はアントニオバローズの猛追をしのいで、2着を守るのが精いっぱいだった。
 敗れはしたが意地は見せた。皐月賞では3強の1角として2番人気の支持を受けたが、テンションが高く13着に大敗。巻き返しへ向け、中間からメンコを着用。気持ちが高ぶらないように工夫した。その効果はあった。武豊は「あそこまでいったら勝ちたかった。皐月賞とは全然違って、道中もいい感じで行けた。ただ、4角で前の馬が下がってきたときに、気難しいところを出して(後続に)差を詰められた」と悔しそうに振り返った。
 96年ダンスインザダーク、04年ハーツクライに続く3度目の銀メダルとなった橋口師だが、その表情はサバサバとしていた。「残念だけど、よく頑張ってくれた。最高の競馬へ最高の出来で出せた。うまく折り合いもついて、心の中ではヨシヨシと思っていたけどね」。皐月賞では3強として名を並べたロジユニヴァースとの1、2着。「この前の惨敗組が底力を見せてくれたのはうれしい」と話した。「また定年まで元気が出てきた」。来年こそは―。熱い思いは変わらない。


アントニオ 闘魂見せた3着 

 

 「僕のなかでは1番人気だった。1着しか狙っていなかったから…」。3着に敗れ、アントニオバローズの角田は悔しさをにじませた。しぶとく脚を伸ばしたが、雨の影響も受けた。「4角まで持ったままのつもりだったけど、3角で脚を取られてふわっとした」と肩を落とす。菊花賞馬マンハッタンカフェの産駒。武田師が「あとにつながる内容。上等だよ。このあとは一服いれたい」と秋のリベンジに力を込めれば、主戦も「また鍛えて、菊花賞を」と、さらなる飛躍を期待した。


アプレ 残念5着  


中団のインで脚をためたアプレザンレーヴは5着。直線入り口で満を持して外へ持ち出したが、持ち前の末脚は不発に終わった。「4コーナーでは十分に手応えが残っていたので、馬場のいい外めに出したけど、逆に後ろからかわされてしまった」と内田博は肩を落とす。最後まで闘志は途切れなかったが、不良馬場が影響し青葉賞ほどの爆発力は見られなかった。

 

アンライバルド 2冠の夢雨に消えた12着  

 

 夢は雨に流された。1番人気に推された皐月賞馬アンライバルドは見せ場なく12着に沈んだ。3角から手応えは怪しくなり、直線に入るときにはエネルギーは既に残っていなかった。史上2組目の春の2冠父子制覇、50年ぶり史上3組目となる兄弟V、すべては強い雨の前に打ち砕かれた。
 岩田は無念を表情に出した。「出して行こうと思ったけど、無理をして行っても駄目なので。向正面ではハミが外れて乗りやすかったけど、3角では下(馬場)を気にして、直線の真ん中ではヘロヘロになった」。タフで、先行馬に有利に働いた馬場状態。「ここまで泥んこ馬場になると厳しい」。後方で悔しさをかみしめるしかなかった。
 状態面は万全だった。友道師も馬場を敗因に挙げる。「ゴール前ではフォームがバラバラだったみたい。落ち着きもあって雰囲気は問題なかったが、これだけ雨が降るとね。少々の道悪なら大丈夫だとは思ったけど」と静かに振り返った。今後は放牧に出る予定。巻き返しの秋へ、良血馬の新たな戦いが始まる。

 

 

ロブスト 皇成ホロ苦…16着  

 

 ほろ苦い“祭典”デビューとなった。アーリーロブストでダービー初騎乗となった三浦は16着。「1着でゴールするには、ボクには早かったということ。もっと技術を高めて、周囲からの信頼も得ないと」と、改めてクラシックの厳しさを認識た様子。それでも、「他のG1とは雰囲気が違う。いい経験をさせてもらいました」と若武者は貴重なキャリアを今後に生かしていく構えだ。

 

 

 

 

牡3歳。父ネオユニヴァース、母アコースティクス(母の父ケープクロス)。馬主・久米田正明氏。生産者・安平町 ノーザンファーム。戦績・6戦5勝。重賞・08年札幌2歳S、ラジオNIKKEI杯2歳S、09年弥生賞に続き4勝目。獲得賞金314、991、000円。萩原清調教師、横山典弘騎手ともに初勝利。

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