オークス・G1

GT史上初!

1着同着W女王誕生

2010/5/23 東京競馬場

▼オークス・G1
1着 サンテミリオン
アパパネ
横山 典弘
蛯名 正義
 
3着 アグネスワルツ 柴田善臣

 雨中で行われた牝馬クラシック第2章にはある意味信じがたく、感動的な結末が用意されていた。蛯名アパパネと横山典サンテミリオンの死闘は、長い写真判定の末にG1史上初の1着同着に。口取りと表彰式は1頭ずつ行われ、場内は大歓声に包まれた。アパパネは、牝馬クラシック2冠を達成。秋華賞で3冠を目指す。また、サンテミリオンは父ゼンノロブロイにG1初Vをプレゼント。横山典は2週連続のG1制覇で、日本ダービーに弾みをつけた。

アパパネ(左)とサンテミリオン(右から2頭目)

直線で激しいたたき合いを演じたアパパネ(左)とサンテミリオン(右から2頭目)

 

戴冠サンテミリオン

アパパネ2冠

 

 12分間に及んだ長い写真判定のなか、検量室で勝負服を脱ぐことなく緊張した表情で結果を待つ2人のジョッキー。G1史上初の1着同着、勝利の女神が両者にほほ笑むというエンディングに、大きなどよめきと拍手が沸き起こった。お立ち台に先に上がったアパパネの蛯名が、サンテミリオンの横山典を呼び寄せて肩を組む。「おめでとう!」。死力を尽くして得た喜びを抱擁で表現した。


 桜花賞馬がさすがの底力を見せた。サンテミリオンをマークする形で中団で折り合ったアパパネは直線、蛯名が「楽に突き抜けると思った」という手応えをストレートに反映させ、残り1Fで完全に頭差ほど前に出る。だが、そこから差し返しに遭って一転窮地に。ゴールの瞬間、体勢的に分が悪いと感じた鞍上はレース後、2着馬が入るべき場所に誘導したほどだ。それでも、結果的にはしのぎ切っていた。

 

 レース後もしばらく興奮が続くサンテミリオンの関係者とは対照的に、アパパネ陣営は「負けなくて良かった」と、国枝師と蛯名は比較的冷静な口調で言葉をそろえる。「仕方がないね。まあ大したもんだ」。デッドヒートの末の“女王防衛”に、指揮官は大きく息をつき、苦笑いも見せた。


 2頭の勝者が描いた微妙なコントラスト。それでも、昨年のブエナビスタに続き史上12頭目の桜花賞&オークス制覇を成し遂げたアパパネの強さと、陣営の最高の仕上げは大いにたたえられるものだ。「長い距離を走るので、できるだけ(余分なものを)そぎ落としたかった」(蛯名)という馬体は、陣営の思惑通りに前走比10キロ減。それでいて落ち着きは十分で、樫仕様へのモデルチェンジは大成功だった。スプリンターとも言える母系の血を感じさせない走りに、主戦は「距離のことをいろいろと言われたけど、いい意味で裏切れたね」と胸を張った。

 

 最優秀2歳牝馬が、3歳春のクラシック2冠を制したのは史上6頭目の快挙。これで03年スティルインラブ以来、史上3頭目の3冠牝馬誕生の資格を得た。秋華賞(10月17日・京都)へ、今後はトライアルから始動する。「秋は距離が短くなる分、楽になる。本当に偉い馬。頭が下がるね」と蛯名。国枝師も「まだまだ良くなると思う」と言い切った。

 

 

 

横山典(左)と蛯名(右)<br>

馬単ダブルゲットに成功した蒼井優(中)を挟んで笑顔を見せる横山典(左)と蛯名(右)


【横山典オークス初制覇!秋へ飛躍誓う】

 2週連続のG1勝利に最高の笑顔がはじけた。激闘の末、サンテミリオンを“1着”へと導いた横山典は、アパパネの蛯名と抱き合った。「最初は勝ったと思って引き揚げてきたのに、だんだん“アレ?”って感じになって…。でも、負けなくて良かった。同着でも何でも、勝つというのは難しいことだから」。そう言うと、ホッとしたような表情を見せた。
 最後の直線は壮絶なたたき合いだった。「スタートは良かったけど(流れが)速そうだったので深追いせずに、あの位置に。直線では前にいた馬(アグネスワルツ)に楽をさせまいと思って、マサヨシ(蛯名)より先に仕掛けたんだ。いったん差されたのに差し返していたし、馬がよく頑張ってくれたね」とパートナーの奮闘をたたえる。
 前走のフローラSは完勝に見えたが、状態は決して良くはなかった。直線で右へ右へと走っていたことも不満だった。そこで前走後はハミをリングバミに替えて、調教では土谷が徹底的に修正してきた。「オレはレースで乗っていただけ。きょうは出来も良くなっていたし、まっすぐに走っていた。調教師(古賀慎師)やトモ(土谷)のおかげだよ」と関係者への感謝の言葉を口にする。
 藤沢和厩舎の調教助手時代に、古賀慎師は父ゼンノロブロイに携わった。その初年度産駒でのG1初制覇に興奮を抑え切れない。「雨や外枠がどうかと思ったけど、こちらが思う以上に成長してくれていますね。ロブロイの子がこのレースに6頭も出ていて、しかも自分の管理する馬がG1を勝てるなんて…。秋に向け、また頑張ります」と喜びに声を震わせて、さらなる飛躍を誓った。
 現役時代の父の手綱を取った鞍上も「排気量を落として、女の子らしくした感じ。ロブロイにそっくりだよ」とうれしそうにほほえむ。今週の日本ダービーもまた、ロブロイ産駒とのコンビ。4戦4勝馬、ペルーサで臨む。「期待していてください!」。ただ1頭の勝者に―。ノリの熱い春は、競馬の祭典で最高潮を迎える。


【金子オーナー偉業クラシック完全制覇】

 

 アパパネの金子真人オーナーは、クラシック完全制覇となった。枠順と同じピンク色のネクタイで観戦。「ワンパターンだけど、縁起担ぎで。一瞬、負けたと思ったけどね。1・5冠はないから不思議な2冠馬。でも、よく頑張ってくれた」とねぎらった。今年、母のソルティビッドはキングカメハメハと2月21日に種付けし、受胎を確認済み。1歳にはクロフネ産駒の牡馬がおり、続く世代の活躍も期待される。

 


【吉田照哉氏「秋に決着を」】

 

 サンテミリオンを生産した社台ファームの代表で、オーナーでもある吉田照哉氏(62)は、弟・勝己氏が代表を務めるノーザンファームの生産馬との同着に「好敵手だし、これからもお互いに頑張らなければ。この馬はこれからもっと良くなる。秋に決着を」と笑顔。ダービーにはヴィクトワールピサ、ペルーサなどの生産馬を送り出す。「今度はウチの生産馬で同着だな」と周囲を笑わせた。

 

 

 

 

アグネスワルツ 見せ場十分3着

 

 見せ場十分だった。2番手からいったんは先頭に立ったが、アグネスワルツは3着。柴田善は「1、2角で前を追いかけるときにバランスを崩して、ノメっていた。それでも走る馬」と健闘をたたえた。宮本師も「逃げられなかったけど、崩れなかった。秋が楽しみ」とさらなる活躍を期待。今後は北海道の社台ファームで休養し、秋はローズS(9月19日・阪神)から秋華賞を目指す。

 

 

アニメイトバイオ 低評価に反発4着

 

 地力を見せた。阪神JF2着アニメイトバイオが11番人気の低評価を覆して4着に激走。それでも後藤は反省の弁を口にする。「大健闘とかじゃないよ。これくらい走って当たり前の馬。スタートの1歩目で出たけど、カーッとなりそうだったから控えた。結果的には前に行った方が良かったのかもしれないね」と能力をたたえながらも、敗戦に唇をかんだ。

 

 

オウケンサクラ 満開ならず5着

 

 雪辱ならず。桜花賞2着のオウケンサクラは、5着まで追い上げるのが精いっぱい。「中団でもいいとは思っていた。でも、4角手前で勝ち馬より先に動きたかったね。ジワジワ伸びてはいるんだけど」と安藤勝。仕掛けのタイミングで後手に回ったことを最大の敗因に挙げていた。なお、直線での内斜行により、ジョッキーには過怠金5万円の制裁が課せられた。





サンテミリオン…牝3歳。父ゼンノロブロイ、母モテック(母の父ラストタイクーン)。馬主・吉田照哉氏。生産者・北海道千歳市 社台ファーム。戦績・5戦4勝。10年フローラSに続き重賞2勝目。総収得賞金・167、741、000円。古賀慎明調教師、横山典弘騎手ともに初勝利。


アパパネ…牝3歳。父キングカメハメハ、母ソルティビッド(母の父ソルトレイク)。馬主・金子真人ホールディングス(株)。生産者・北海道勇払郡安平町 ノーザンファーム。戦績・7戦5勝。09年阪神JF、10年桜花賞に続き重賞3勝目。総収得賞金・299、458、000円。国枝栄調教師は初勝利、蛯名正義騎手は99年ウメノファイバーに続き2勝目。

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