山下氏&日大三・小倉監督対談(前編)
デイリースポーツ評論家の山下智茂氏(70)=星稜総監督=が全国を行脚し、次世代の高校野球を考える企画。春夏3度の甲子園制覇を誇る日大三(東京)の伝統の冬合宿を昨年末に訪問した。2週間に及ぶ猛練習を乗り越えられる秘密と、そこから生まれるチームの成長とは。小倉全由監督(58)と山下氏、名将同士が指導論に花を咲かせた。
山下総監督(以下、山下)「選手の腰回りが大きいなあ。強いチームは走り込みをしてきている。走り込み、素振りから来てるんでしょうね。ところで、何でこんなきつい練習をするの?いつから始めたの?」
小倉監督(以下、小倉)「巨人の伊東キャンプってあったじゃないですか。自分らが現役の頃は、あのグラウンドを使って12月28日から正月の7日までやっていたんです」
山下「監督が高校生の時からやっているわけ?すごいねえ」
小倉「三高では一度やめちゃっていたんですけど、自分は1年生の時にきつい練習をやって帰ってきて、自分自身がすごく強くなったっていうのがすごくあって。それで監督になって、関東一高(関東第一)の1年目(81年)からやるようになって、日大三高に戻ってからも、これで30年以上ず~っとですね」
山下「選手を追い込んで、限界というものを知ってもらうのは、若い監督さんは怖がって、なかなか限界をわからないで終わってしまう。だから大学や社会人に行っても選手が伸びない感じを受けるんだけどね」
小倉「正直、オーバーワークなんです。何年か前、業者の人が選手の血を検査してくれて。普段の練習とこの合宿と何が違うかと言ったら『この数値は高校生、大学生では絶対出ない』と。追い込み過ぎていて。『ラグビーなら、このぐらいまで追い込みますけど』と言われました」
山下「僕らもどうやったら甲子園に行けるのか、日本一になれるのかと、6月は追い込みでバッティングなし。午後3時半から7時までノックだけです。走り込みとノック。救急車も来ることがある。だから一人一人の限界がどこかを指導者が知って、どうチャレンジするか」
小倉「朝の一番最初は12分間走でぐるぐる走るんですけど、そこで頑張れる子とそうじゃない子は、すぐわかります。だから自分の中で絶対に力を出し切る、昨日と同じ距離で終わったらダメだと言ってやらせて、妥協しないようにして。同じ苦しい中でも、伸びていたら『どっちがいい?』って言いながら」
合宿では早朝5時30分の12分間走から夕食後の素振りまで、1日約10時間も練習する。
山下「今日だけならいいけど、2週間でしょ?やるのもすごいけど、やらせるのもすごいよね。監督もコーチも一人一人に声をかけている。このひと声が違う。声をかけるということは、信頼されているということだから」
小倉「頑張るということがどういうことなのか、今の子供はわからないんじゃないかなと。頑張って結果が出た、成果が上がったという喜びは、日常の練習の中でちっちゃいことでもある。それに気づかないところを監督が言って、快感にさせてやる。その繰り返しっていうんですかね」
山下「こんなにきつい練習をしているのに、ひどい顔をしている選手が1人もいない。きつい練習になればなるほど明るい。監督が自分で動いて汗を出し、声をかけているからですよ。トスを上げる時も選手と同じ目線で上げる、これだけ寒いのにノックをする時も素手。選手はうれしい。最後は『絆』だね。これが日本一になる秘けつなのかな」