山下氏&日大三・小倉監督対談(後編)

 甲子園で3度の優勝を誇る名門・日大三(東京)。猛練習で知られる冬の強化合宿を目にした山下智茂氏(70)=星稜総監督=は、小倉全由監督(58)の指導法に強さの要因を再確認した。チームが醸し出す家族のような一体感。自らをさらけ出して選手に接する指揮官の哲学、その歩みに話は及んだ。

 山下総監督(以下、山下)「僕が小倉さんの好きなところは自分の失敗談を人に語る、家庭のことを語る。やっぱり大監督になってくると、自慢話しか言わない監督が多い。その中で小倉さんは、失敗談をみんなに言えるじゃないですか。堂々と言えるのはすごいなと。本物だなと」

 小倉監督(以下、小倉)「いや、もうありがとうございます」(笑顔で恐縮)

 奥さまの指摘で食事の際の指導を変更したこともあったとか。

 小倉「関東一高の時ですね。女房が合宿所に顔を出して『何でこんなに黙って食べてるの?家に帰ったらみんな、お父さん、お母さんと話しながら、楽しく食べるのに』って。作法だろ、三高はこうやってやってるんだ、って言ってたんですけど、変えてみたらチームは明るくなったんですよね。やっぱり食事っていうのは、楽しく、明るく食べさせなきゃダメだなと」

 山下「僕、毎日ジムに行ってるんですよ。プールで子供がスイミングをやっているんですね。見ていると、小さい子をうまく教えるんですよね。楽しくね。教えるって、ここに原点があるんじゃないかと。小倉さんもそういうことを言われていたと思うけど」

 小倉「自分が現場から離れている時(90年代初め)に、娘がスイミングに行っていて、顔を水につけられなかったんですよ。そしたら、コーチが、おもちゃを沈めて『2人で取りに行こう』って言って、恐怖感を取ってくれた。そしたら背泳ぎとかできるようになって。それを見て、ああ、自分はこういうふうに教えてないなと。グラウンドに来た時は、全員キャッチボールができて当たり前で、それでできない子には、お前らこんなもんもできないのかって、簡単に言ってたなと」

 山下「だいぶ前にそういう話を聞いて、最近になって『ああ、小倉さん、これを言ってたんや』って(笑い)。僕ももっと若い時にこういう経験をしてたら、もっといい野球を教えられていたなあと反省してるの」

 小倉「あれで自分は初めてですね。あんなに何もできない娘を、ここまで教えられるんだなと。すごく勉強になったんですけど」

 山下「小倉さんは選手と一緒になって動ける気持ち、声がすごい。ご苦労さん、ありがとう、って。威張ったところがない。人間性というかな。それが子供たちに伝わって、いい雰囲気で野球をやっているんじゃないかと。僕はよくデイリーにも『人間力を教えている小倉監督』と書く。グラウンドにいる子が明るいですよね。これだけ追い込まれているのに、つらさがない」

 小倉「でも先生、この頃、朝の点呼で寝坊しちゃうのがたまにいて。それがそろうまでが、もうドキドキしちゃって。部屋で冷たくなってるんじゃないかって」

 山下「はははっ(爆笑)」

 小倉「若い頃は『コラーッ!』てガンガン叱ってやってたんですけど、この頃はもう『お前ら頼むから時間に起きてきてくれ。お前らがそろうまでが嫌で嫌で』って言って。そのストレスが…。若い頃は経験豊富な大先輩の監督は、悩みなんか全然ない人たちなのかなって思ってたんですけど、年になればなっただけ、もっと悩みっていうか、いろんなことがいっぱい生まれてくるんだなと」

 合宿には多くのOBも来る。最終日は早朝から60~70人はいた。

 小倉「一部の方からは(近年は訪問者が多く)『合宿がショーになっている』って批判されたりもしたんです。でも、畔上(翔=11年夏全国制覇時の主将、今春ホンダ鈴鹿入社予定)が『監督さん、やったことがある人にしかわからないですよ』って言ってくれて」

 山下「OBがこれだけ来るのはうらやましいし、選手は励みになる。『小倉ファミリー』が運動会をやっているみたい。大家族をしっかりまとめているのが小倉さん。大学生や社会人になっても一人一人把握していて。他にも強いところはあるけど、ひと回り大きい伝統校。その伝統が続いていくんだね。これからも頑張ってください」

 小倉「はい、ありがとうございました」

関連ニュース

編集者のオススメ記事

野球最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング(高校野球)

    話題の写真ランキング

    写真

    デイリーおすすめアイテム

    リアルタイムランキング

    注目トピックス