宮藤官九郎監督「自由になれた気がする」
不慮の事故にあった思春期全開の高校生、目が覚めるとそこは地獄だった・・・。宮藤官九郎監督のオリジナル脚本による最新作『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』が、いよいよ6月25日に公開される。主演の長瀬智也が、「こんなに振り切れた宮藤さん見るの初めてだ」と語る渾身の痛快作について、宮藤監督を直撃した。
写真/渡邉一生
「映画らしくすることに無駄な労力を使ってた(笑)」(宮藤監督)
──監督作として4作目、前作『中学生円山』(2013年)以来、実に3年ぶりとなるわけですが。
ですね。
──ビックリするくらい面白かったんですけれども、本作における宮藤監督の突き抜け方といいましょうか。長瀬さんも監督のことを「ぶっ壊れてました」とか、「こんなに振り切れた宮藤さん見るの初めてだ」というコメントを残してますが、その要因はどこにあったんですか?
今回、最初に話を考えたときから「これは大変な作品だなぁ」と自分で分かったので、準備段階から色んなことを決めていったんですよ。だから、現場でほとんど迷わなかったのが、振り切れたって言われる一番の要因かなぁ。あとは、いちばん大きな美術である「地獄のセット」のイメージが上がったとき、ちょっとワクワクしたんですよ。ここまで舞台がちゃんとできてるんだったら、撮り方も具体的に考えて現場に入りたいなと。なので今回初めて、絵コンテを全部描いたんですよ。
──前作『中学生円山』でも、少し描かれてたみたいですが。
前回は説明しないと分かんないだろってとこだけを描いたんですけど、今回は全部描こうと思って。絵コンテを描くと、スタッフが現場でやるべきことがはっきり分かるんですよね。アングルとかカットとか、映像的なことで悩むことが現場で無かったのは大きいですね。こういう(舞台のような)セットだとカメラも縦横無尽に動けたんで、それも良かったかな。
──『パコと魔法の絵本』などの美術を手掛けた桑島十和子さんによるセットですね。このスタイルというのは、いわゆる舞台的な手法に近いですよね。
そうです、なぜか今までやってなかったんですよね。4作目にして、映画ってものをなんとなく理解したんだと思います。で、映画の常識のなかで、みんなと同じように映画を撮ってたら、そこはいっぱい撮ってる人の方が勝算がありますからね。僕は滅多に映画撮らないから、そこから考えた方が良いかなと思って。
──監督は「大人計画」に所属しながら、脚本家としても活躍されてるのは誰もが知るところで、映画の分野でも、『GO』(2001年)で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『舞妓Haaaan!!!』(2007年)で優秀脚本賞も獲得されている。それでも映画の世界はよく分からない、自身の監督作でもその映画界の常識に合わせようという意識があったと。
3作撮ったことで、自分はこうするべきなんじゃないかっていうのが、やっと分かったというか。今まで、映画のスタッフに教わりながら「こういうもんです」という常識でやってきましたけど、もう、それに従わなくても良いやって。自由になれた気がしますね、はい。
──たしかに今作は、意識としてもはや映画でなくてもいいというか、箍(たが)を外した感じですね。
これまで、映画らしくすることに結構無駄な労力を使ってましたから(笑)。スタッフがみんな映画の人だから、僕がそこに合わせるような形だったんですけど、今回はわりと初めてのスタッフが多かったこともあって、なんとなく見つけた自分のやり方に、みなさんに付き合ってもらった感じが強いですね。
──その監督のやり方を象徴するのが、初めて描いた絵コンテと、舞台のような美術セットだったという。この2つが、スタッフとキャストが監督のイメージを共有する大きなものになったんですか?
そうですね。共通の言語が無い人たちが最初に集まって・・・まぁ、映画って大体そうですけど、そうするとみなさん自分の経験をもとに、「あの作品ではこうだった」となりがちなんですけど、今回は前例がなかったので、最初に東映のスタジオにドラムを2台組んで、それを引き枠(舞台装置)に乗っけてガンガンぶつけて、「できますねぇ」って(笑)。そういうところから始めて。みんな、「意外とこれ、面白いですね」って。片方にカメラ乗せて撮ったりして、やったこと無いことばっかりだったんで、そこでもワクワクして。スタッフは本当、大変だったでしょうが(苦笑)。
「長瀬くんは珍しく、ちょっと話す機会があって」(宮藤監督)
──今作は世界初の「地獄コメディ」ということで、主演は『真夜中の弥次さん喜多さん』でもタッグを組んだ長瀬智也さんが、地獄専属ロックバンド・地獄図(ヘルズ)のボーカル&ギター・キラーKを演じています。特殊メイクと衣裳、ギターとかつらの総重量が10kgという鬼役ですが、これが相当ハマってますね。
長瀬くんは珍しく、台本を読んだ後にちょっと話す機会があって。(キラーKという役を)こういう風に考えてるって言ってくれて、まったく一緒ではないけれど、近いことを考えてくれてて。そこで、衣装はこんな感じになりますとか、ギターはこんな感じのやつですとか、本番前にちゃんと打合せをやってたんですよ。で、そんなことしてたら、地獄のバンドメンバーである神木(隆之介)くんや桐谷(健太)くん、清野(菜名)さんと一緒に、読み合わせをすることになって。じゃあ、ついでにバンドの練習もしようかと、三茶(三軒茶屋)のスタジオを押さえたりして。
──読み合わせの流れから、バンドの練習に?
そう。まぁ、長瀬くんはTOKIOをやってるから当然できるんですけど、清野さんとかは演奏は初めてで。そしたら「1人で練習してるより楽しい!」とか、お芝居やってる以上の連帯感みたいなのが生まれたんです。初めて会って、「こういうシーンを撮ります。では、よろしくお願いします」って感じだと、多分きつかったでしょうね。やっていくうちに、こういう風にハモった方が良いんじゃないかって、自分で歌入れしたデモ音源を持ってきたりして。なんか、すごく前のめりにやってくれましたね。
──それは相当、前のめりですね。
そうそう(笑)。あと最初、鬼をやる長瀬くんが、どこまで振り切っていいのか、それとも、来たばっかりで地獄に慣れていない感じを出した方がいいのか、かっこよさげにやってるんだけど、どこか間抜けな感じがいいのか。そんなことをずっと話してて。僕としては、力いっぱいやれば自然にそういう部分は見えてくると思ってたんですけど、本人は結構細かいとこを気にするタイプというか。細かいところが気にならなければ、あとはなんにも気にならない人なんですけどね(笑)。でも、「バッチリです」っていったら、そこからは潔いですよね。
──顔で弾いてる感じがなんとも素晴らしいです。
長瀬くんって、俺より10近く年下ですけど、なんか実年齢よりちょっと古いもの、わりと仰々しいロックが好きみたいで、モトリー・クルーとかキッスとか。今の若い人たちにとって、もうちょっと等身大の、飾らない自然体の音楽がロックみたいだけど、40代の我々からすると、設定が「悪魔」とか「鬼」とかの方がロックだから、長瀬くんはそれをすごく理解している。珍しいですよね、若いのに。
──長瀬さんは資料で、「北欧系じゃなくて、西海岸っぽい明るいメタルにしたいなあと。エイティーズメタルなハイトーンボイスで歌いました」と語っていますが、その違いが分かってるのは大きいですね。
そうですね。僕はよく分かりませんが。
──その長瀬さんが率いるバンド・地獄図(ヘルズ)が歌うのが、元THE MAD CAPSULE MARKETSのKYONOさんによる主題歌『TOO YOUNG TO DIE!』(作詞は宮藤監督)。オープニングで披露されるこの1曲が、宮藤監督がイメージする「地獄」を一発で表現しています。
最初、今回の劇伴(劇中音楽)は全部、向井(秀徳)さんにお願いしようと考えてたんですけど、主題歌だけ違う人の方が良いんだろうなーって思ってたら、向井さんもそう言ってくれて。それで名前が挙がったのが、KYONOさんだったんです。
──イメージ通りでしたか?
イメージ通りというか、もうね(笑)。KYONOさんは「オレ、あんまりメタルは詳しくないんですけど・・・」って言ってて。「僕もなんですよね。でも、イメージとしては、すごいリフがガンガン鳴ってるんだけど、サビになると急にメジャーになって、きれいなメロディで・・・」なんて言ってたら、ホントにイメージ通りにあがってきたんで、すごいなぁと思いましたね。
──この曲をスタジオを練習したんですか?
そうです、そうです。それと、挿入歌の『天国』(作詞:宮藤官九郎、作曲:向井秀徳)。なんのイメージも持たずに書いた歌詞ですけど、『TOO YOUNG TO DIE!』も『天国』も、映画を撮り終わったあとに振り返ってみると、最初からこの映画でやろうとしてたことが歌詞のなかに詰まってて。適当に書いたわりにちゃんとしてるなって(笑)。最初から決まってたんだなぁーって思いましたね。
──先ほどの絵コンテもそうですが、歌詞の世界感がそのまんま映画になってるっていうことは、宮藤監督の頭のなかのイメージが、これまで以上に強いものとしてあったということですか?
そうかもしれないですね。それは物語というより、舞台とそこに立ってる人たちのイメージですかね。まぁ、長瀬くんがとにかく乗らなかったらこの映画出来ないなと思ってたんで、長瀬くんに最初に理解してもらえて映画がスタートした感じはありますね。
「初号を見た人たちが、青春映画として観られるって」(宮藤監督)
──宮藤監督は、脚本仕事を含めると、長瀬さんとは結構仕事をしてますけど、これだけ密に向き合ったのは初めてですか?
そうですね。役について話したりすることは今まで無かったんで。あっ、ドラマ『うぬぼれ刑事』(2010年・脚本と演出が宮藤監督)のときはちょっとしゃべったなぁ。でもそれは脚本だけだったんで、あ、違うな。オレ、監督もしたな(笑)。そのときは最初に、方向性だけを擦り合わせしたんですけど、今回はわりとちゃんと話しましたね。
──劇団って、稽古して、本番を迎えるまでの長い時間を一緒に過ごすことで、連帯感が培われていくじゃないですか。結果的かもしれませんが、先ほどのスタジオでの練習や舞台的なセット、念入りな打合せなど、宮藤監督の本職である演劇の手法を映画で展開したことが功を奏したと。
そうですね。今回はみなさん忙しい人たちだったので、リハーサルとかはできなかったんですけど、スタジオでの音出しとか、それこそ(鬼の)牙を作るから歯形とらなきゃいけないとか、そういうことでしょっちゅう顔合わせてたのが結果的に良かったのかもしれないですね。なんかこう、劇団っぽいっていうか。
──劇団は、まさに宮藤監督のホームですよね。
そう。でも実は、うち(大人計画)の役者は2人しか出てなくて。しかも、荒川(良々)くんは1シーンだけだし、皆川(猿時)くんも半分過ぎるまで出てこないから、ホントに近しい人が出ている場面って、実はあまり無いんですよ。でも、やってることがやってることだから、すごく気心が知れてる人たちでやってるような感じがありましたけど。
──清野菜名さんや尾野真千子さんは初めてですよね?
初めてです。清野さんも尾野さんも、あと宮沢(りえ)さんも。脚本で絡んだことがあるのは、神木(隆之介)くん、桐谷くん、森川(葵)さんとか。長瀬くんだけなんですよね、そういう意味でお互いよく分かってるというか。別に長瀬くん、大人計画じゃないしなぁ(笑)。
──とはいえ、宮藤組みたいなイメージはありますね。
なんか、そんな感じになっちゃてますけどね。今回、合成が多かったのもあって、いつもより多く見る機会があったんですよ、編集の段階で。で、よく考えたら、初めての人が多かったんだなぁって思って。
──今回、宮沢りえさんをはじめ、坂井真紀さん、古田新太さんら、豪華キャストが名を連ねていますが、驚いたのがそのなんとも贅沢な使い方というか。
それもけっこう学んだんですよ。要するに、映画って1日空いてれば出られるんですよ。(閻魔大王の)古田さんなんて、撮影したの1日ですからね。1日しか空いてなかったから、それをまるまる使って。さすがに疲れてましたけど(笑)。「この辺にこのくらいの大きさの神木くんがいると思って、あと、この辺には誰々がいると思ってやってください」って説明しましたけど、途中からもう「はい、はい」って、一切質問が無かったですからね(笑)。
──まぁ、何も知らずに来ていきなり地獄セットですから(笑)。
後日偶然会ったとき、古田さんが「あの映画はなにが面白いのか分からん」って言ってて。「いや、大丈夫です。繋がってますから大丈夫ですから」って言いましたけど。「あれだけワケの分からないのに・・・面白いらしいな」って、びっくりされました。
──あと、Charさんや野村義男さん、木村充揮さん、ROLLYさんらを地獄のミュージシャンとして出演されています。でも、一番驚いたのは歌舞伎役者の中村獅童さん。正直、気づきませんでした。
でしょうね(笑)。獅童さんに出演オファーのメールを出したら、「精子の役、やらせていただきます。ありがとうございます!」ってすぐ返事がきて。「獅童さん、精子じゃなくて、我慢汁の役ですよ」って送ったら、「なおのこと、一生懸命やらせていただきます!」って返ってきて(笑)。それこそ本人、なんの映画か分かってないまま、来たと思います。セリフも一言だけですし。
──1番お堅い仕事なんですけどね、出演者のなかでも。
よく受けてくれました。ほかの人には出来ないですけどね。
──ただ今回、宮藤監督ならではのクセもありつつ、男女年齢問わず楽しめるエンタテインメントな作品となりましたね。
そうですね。初号(試写)を見た人たちが、すごく清々しい気持ちになる、青春映画として観られるっておっしゃってて。図らずもですけど、そうなったなぁと。いかんせん地獄だし、ちょっとホラーだと思ってる人もいるみたいですけど、そうじゃないってことを早く知って欲しいですね。
(Lmaga.jp)
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