素材は消しゴムのカス? 神戸の古墳をめぐる伝説からフィギュア作品が出現
「兵庫県立美術館」(神戸市中央区)の注目作家紹介プログラム『チャンネル』。10回目となる今回は、広島を拠点とする若手作家、入江早耶がピックアップされ、個展がおこなわれている。彼女は消しゴムカスを素材に立体作品を制作するユニークなアーティストだ。
入江が題材にしたのは、神戸市東灘区と灘区にある3つの古墳(処女塚古墳、東求女塚古墳、西求女塚古墳)と、それにまつわる悲恋伝説「菟原処女の伝説」。伝説ではひとりの女性を巡って2人の男性が争い、ついには3人とも死んでしまう。本展はその令和版と言うべき新たな物語である。
ホワイエの壁に記されたテキストに沿って展示室に入ると、そこにはダンボール製の二つの箱と一つのパネルがあり、それぞれの中央に3体のフィギュアが展示されている。2人の男性は古代の兵士と毘沙門天、不動明王の掛け合わせで、女性は千手観音とアニメの美少女戦士が融合した姿だ。それらはダンボールの表面を消しゴムでこすったカスで作られている。色付きの部分は着色ではなく、ダンボールの印刷部分をこすって色付きカスにする手間の掛けようだ。
入江が創作した本展のストーリーでは、スポーツやゲームで勝負がおこなわれ、最後は誰も死なずにハッピーエンドを迎える。つまり原作とは異なるわけだが、古代の悲恋伝説が現代に受け継がれるのは意義深いことだ。なお本展では、館内のコインロッカーと美術情報センターにも入江の作品が展示されている。こちらもお見逃しなく。会期は12月22日まで、入場無料。
取材・文/小吹隆文(美術ライター)
(Lmaga.jp)