恐妻家・ポンセ(下)

 ポンセは次第に態度が大きくなった。

 それくらいはどうということはないのだが、3年目に本塁打、打点と2つのタイトルをとったとき、だれに言われたのか、代理人を立ててきた。

 アメリカ球界に代理人が登場するのは71年ごろからで、資格としては弁護士が多く、ユダヤ系アメリカ人が多い。

 だれでもなれるわけではなく、コミッショナーに届け出る必要がある。

 現在、ほとんどのアメリカ選手は代理人を立てて契約行為を代行させているが、米球界はこの代理人に頭を痛めていた。

 日本へ来て、思っていた以上の成績を挙げたポンセに、獲物を探していているタカのような代理人が目をつけ、素早く話をまとめたのか、ポンセが頼んだのかはわからない。

 法律上の問題はないといっても、日本では交渉は常に当事者の対面によって長い間行われてきている。

 それにアメリカの実情から見て、代理人が付くことによって金銭がハネあがることは目に見えている。決められた金銭の何%かが彼らのフトコロに入るのだから、代理人は当然、大幅にふっかけてくる。

 当時は日本人選手で代理人を立ててくるケースはなかったが、アメリカ並みになったらえらいことになると推察したものだ。

 やっていけなくなる球団も出てくるかもしれない。現に大リーグの経営者たちは、この代理人の存在で苦しんでいた。

 経済的な面だけでなく、大リーグの首脳陣は選手が代理人を立てるようになってから、やる気をなくし、怠けるようになったと、当時証言している。

 話をポンセに戻そう。2冠王になって舞い上がったポンセに、大洋は甘い顔を見せなかった。

 ポンセもイヤになったのか、5年目に15試合に出ただけで去っていった。

 素直に日本の経営基盤の中でプレーを続けていたら、彼はもっと働けただろうし、金も手に入ったに違いない。

 私は、人のいいポンセが代理人の食いものにされたと思っている。人がいいということで、ポンセには愉快な思い出がある。

 東北遠征に行ったときだ。仙台から西へ20キロほどの作並温泉へポンセを連れていった。

 彼は温泉が大好きで、このときも大喜びで出掛けた。

 宿に着いて、湯に入ろうということになり、私とポンセは浴衣に着替えて風呂場へ行った。

 素早く裸になったポンセは、ガラリと戸を開けて入ったと思うと、「ヒャーッ」と、悲鳴を上げて飛び出してきた。

 なにごとかと驚いている私に、「これはミスだ、大変だ」と言う。浴場をのぞいてみたが、40年配の女性が4、5人、あとは男の客が2人ほど湯につかっている。

 ハハア、と思った。混浴の習慣があることなどポンセが知っているはずもない。

 「いや、ミスではない。ここは男女一緒に入れる温泉なのだ。それに女の客といっても年配の人ばかりではないか。気にすることはない」と、説明したが、ポンセは激しく首を振って湯に入ろうとしない。

 「女の人が平気なんだから、おまえが恥ずかしがることはないじゃないか」

 「ウシ、おまえはオレのワイフを知らないのだ。もし、オレが女の人といっしょに風呂に入ったとわかったらどうなるか。すべてがおしまいなんだ」

 そんなことを言い合っているうちに、「じゃ、絶対だれにも言うな」と、私にくどくど念を押し、もの珍しそうに浴場に入っていった。

 入っているうちにいい気分になったのだろう、他の客をマネて頭にタオルをのせ、「ああ、実にいい気分」などと言いながら、しっかりと“オバサン”の方へ視線を走らせているのには参った。

 ポンセのことを思い出すたびに、そのときの満足そうな顔が今でも目に浮かんでくる。

(デイリースポーツMLB解説委員・牛込惟浩)

  ◇  ◇

 牛込惟浩(うしごめ・ただひろ)1936年5月26日生まれ、78歳。東京都出身。早稲田大学を経て64年、大洋ホエールズに入団。渉外担当としてボイヤー、シピン、ポンセ、ローズなど日本球界で大活躍した助っ人たちを次々と獲得し、その確かな眼力でメジャー球界から「タッド」の愛称で親しまれた。2000年に横浜ベイスターズを退団。現在はデイリースポーツMLB解説委員。(本紙MLB解説委員)

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