マエケン体操から見えた勝利への執念
一生懸命な姿には、見た目を超越したかっこよさがある。
12日の巨人対広島(東京ドーム)の最終回だった。三塁側ベンチ前で、いつものようにマエケン体操をする広島・前田健太投手(27)の姿があった。
1点ビハインドの九回表、味方の逆転を信じて、その裏のマウンドに向けて準備していたのだ。逆転の可能性がある限り、ウオーミングアップは、当然と言えば当然だが、センターのカメラ席からゲームを撮影していた私は、思わずレンズを前田健太に向けた。
これまで何度となくマエケン体操を見てきたが、両手をグルグル回す奇妙な体操を、正直かっこいいと思ったことはなかった。故障を防ぐために、なりふり構わずやっているのだろうと思って見ていた。球界を見渡しても、同様の体操をグラウンドでやっている投手を見たことがない。球界を代表する右腕がやっているのだから、真似をする投手が出てきてもよさそうなものだが。
マエケン体操はPL時代に指導を受けていたトレーナーが考案したもので、肩や肩甲骨の血流を良くし、ピッチャーが球を投げるときに必要な腕や肘の動きを、体に覚えこませることができるという。プロ9年目の今もなお続けているのだから、きっと効果があるのだろう。
しかし、この日のマエケン体操には、勝利に対する執念を感じた。負ければチームの連勝街道(6連勝)を止めてしまう。タスキをつなぐ駅伝ランナーさながらに、九回裏のマウンドに向かってウオーミングアップをしている姿は、ファンならずとも、心揺さぶられる。
結局、九回表の味方の攻撃はスコアリングポジションにランナーを進めながらタイムリーが出ず、101球の粘投は報われなかった。
台風で帰りの交通アクセスが心配される状況ではあったが、前田健太に九回裏も投げてもらいたかった。8回5安打2失点は先発投手としての責任を十分に果たした内容だ。勝負には負けたが、エースが見せた執念は、つながっていくに違いない。かっこよかったぜ!マエケン。(写真と文=デイリースポーツ・開出 牧)