川内優輝、陸連への不信感を激白
男子マラソンの最強市民ランナーで、今年度のマラソンナショナルチーム(NT)入りを辞退した川内優輝(28)=埼玉県庁=が2日、ゴールドコーストマラソン(7月4、5日)への出発を前に、成田空港で会見し、NT選定過程における日本陸上連盟への不満を激白した。
「何回も裏切られた」-。溜まりに溜まっていた思いが、速射砲のように川内の口からあふれ出した。陸連は先月の理事会で、リオデジャネイロ五輪代表選考において、NTメンバーを優先的に選ぶとしていた原則を突如撤廃。川内がその情報を知ったのは、5月の仙台ハーフで実業団の知り合いから。それまで川内には陸連側から何の情報も下りてきていなかった。
それまでにもNTメンバーの発表が、当初3月の予定だったものが4月に、5月に、6月にと、どんどんずれ込んだが、川内には連絡はなく、情報はすべて新聞報道からだった。「事前に連絡があれば、(NTに)入る気持ちはあった。でも、陸連の中でもめてるし、情報も混乱している。そういう組織にいて、意味があるのか。優先事項がなくなるという重要な情報も回ってこない。そこで辞退に心が固まった」。陸連から送られてきた同意書にサインせず、自ら辞退届を作成し、郵送したという。
また、1年間在籍した中でNT自体のあり方にも疑問を抱いた。「昨年、12人いた中で自己ベストを更新できたのは今井(正人)さんだけ。サブテン(2時間10分以内)も今井さんと私の2人。3人がマラソンを走れず、合宿で半分の人が40キロ走も走らない。そういう状況の中で、締め付けだけ強くなる。思い描くトレーニングが積めない」
川内自身、現在、昨年末に負った左足首のねんざからの回復が遅れ、思い描く調整を進められていない。「3人の選手が怪我でマラソンを走れなかったように、NTにいても(科学的なサポートで)マラソンを走れるようになるわけじゃない。僕にとって、五輪はリオが最後の挑戦。NTにはめられながらやる中で失敗したら後悔する。最後ぐらい自由に自分の意志でやろうと思った。科学的にやるよりも、自分には野生的な方が向いている」と、最後の五輪に掛ける思いも、決断を後押しした。
お家芸復活の切り札として発足した、陸連“肝いり”のNT制度。公然と批判することは、勇気がいる行為だ。選考における心証に、影響がないとも言い切れない。ただ、それでも川内は、すべてをぶちまけた後、笑いながら言った。「マラソンは結果がすべて。文句のない結果を出すしかないですよね」。信念を欠いた肩書きだけのNTなら必要ない。己を貫き、一市民ランナーに戻った川内が、最後の夢舞台へ走り出した。