実写版「進撃の巨人」は成功するか…

 いよいよ今週末に封切られる映画「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」(前編8月1日、後編9月19日公開)。映像化不可能と言われ、一度は監督が交代するなど紆余(うよ)曲折を経ての公開だけに、気になる読者も多いはず。果たして、実写版『進撃』は成功するのか-。鍵となる3つの「壁」を検証した。

 (1)原作との違い

 原作は、巨大な壁の中で暮らす人類と、人食い巨人との戦いを描いた人気漫画。脚本を担当した映画評論家の町山智浩氏(53)は、ラジオ番組で「いっぱい“壁”があるんですよ、この映画化には」と語っている。

 そこには、原作者・諫山創氏(28)の思いがあった。今月2日の会見でコメントを発表し「(打ち合わせ時に)僕から『原作の枠を取っ払ってほしい』とお願いをして“ビルの上で生活する人類”や“主人公が(原作では脇キャラの)ジャン”など、あえて原作とは違う設定を提案しました」と明かしている。

 当初「進撃」は13年公開を目指し中島哲也監督(55)が製作するはずだった。11年12月にプロジェクトが発表されたが、1年後に降板が伝えられた。関係者によると、中島版「進撃」は試作フィルム段階まで進んでおり、原作とは違い「現代の東京に巨人が現れる」設定だったという。

 今回は原作を基本としているが、変更点は少なくない。重視されたのは、日本で撮影し、日本人が演じる上での違和感をいかに少なくするか。原作の舞台はドイツだが、映画では文明が一度崩壊したと見られる未来の日本が描かれている。

 映画オリジナルの車やヘリコプターの残骸も登場。日本人名に「ヴ」の発音がないとして、人気キャラ・リヴァイらは名前を変更した。主人公・エレンの設定も一変。町山氏によると、諫山氏から「原作のエレンはいかにも少年漫画の主人公で感情移入できない。巨人を見ると身動きができないようなキャラにしてほしい」と提案されたという。原作のファンタジーに実写としてのリアルを注ぎ込み、映画版ならではの世界観を構築している。

 (2)トラウマ

 本作は、来年公開の新作「日本版ゴジラ」も手がける樋口真嗣監督(49)によって「特撮」と「CG」を融合して撮影された。巨人は実際の人間が演じて、合成している。この巨人がめちゃくちゃ怖い。樋口監督は「生理的な恐怖を感じるように」と巨人の“生感”にこだわったという。

 プロットを作る際、製作陣は「『進撃の巨人』とは何か?」という、いわば“本質”を徹底的に議論。「巨人に人間が食べられる恐怖」と導き出した。

 映画では感情が読めず、生々しいビジュアルの巨人が次々と人間を捕食していく。残虐な描写も多いが、映倫のレイティングは「PG12」(12歳未満の鑑賞には、成人保護者の助言や指導が適当とされる指定)。00年公開で話題を呼んだ映画「バトルロワイヤル」や3月公開の「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のような「R15+」(15歳未満の入場を禁止する指定)にはならなかった。

 大きかったのは樋口監督の「トラウマ映画を作りたい」という意志だろう。幼少期、劇場で見た映像が恐怖のあまり夢にまで出てきたような鮮烈な映画体験を、今の子供たちにも与えたい-。映画には、そんな「子供たちに向けた」思いが込められているという。

 血の色の調整1つでレートが変わるため、プロデューサーが何度も映倫に映像を持ち込んでチェックを受け、年齢制限の“壁”を突破した。

 (3)映画館戦争

 公開規模は、全国426スクリーン。中でも注目なのが、洋画大作の独壇場となっているハイスペック上映だ。特別な音響を備えた巨大スクリーンで鑑賞するIMAXが19、可動型のアトラクション座席が売りの4DXが17、MX4Dが3、D-BOXが8スクリーン待機している。4パターンの特別上映は邦画初。スマホで映画が見られる時代に、劇場でしか味わえない迫力を、満遍なく提供する初めての日本映画と呼べそうだ。

 とはいえ、背後には巨大な“壁”が待ち受ける。世界的な大ヒットを記録している「ジュラシック・ワールド」だ。「進撃」が公開された、わずか4日後、5日(水)に日本で初日を迎える。もともと7日(金)に公開予定だったが、日本に先行して封切られた北米などで歴史的な好スタートを記録。公開日を前倒しした。世界興収は15億ドルを超え、歴代3位に位置する文字通りの怪物映画だ。

 7日には人気シリーズ最新作「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」も公開。IMAXなどを含めたスクリーンは“奪い合い”となるだけに、巨人と恐竜&スパイの日米対決が興業の風向きを決めそうだ。

 熱狂的な原作ファンから過激な酷評を受けることも多い昨今において「(1)原作からの変更」がどう受け入れられるか。圧倒的な巨人の恐怖感が、子供たちに、いい意味での「(2)トラウマ」を植え付け、生涯の1本となるか。そして、後続の大作に飲み込まれず「(3)スクリーンを死守」できるのか。夏休み興業を左右する“巨人”の戦いぶりを注視したい。

 なお余談だが、映画には、複数のカメオ出演者がおり、人気アイドルグループのメンバーや有名アーティストがさりげなく登場。巨人の1人も某映画監督が扮(ふん)している。記者はエンドロールで「え?」と驚き、2回目の鑑賞でようやく発見した。本編後の後編予告編にも、国民的アイドルが映し出されるので、お見逃しなく。(デイリースポーツ・古宮正崇)

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