中村ゆうじが残した“大食いの教科書”
テレビ東京が長年にわたり放送している大食い番組「元祖!大食い王決定戦」で、1994年から22年間、MCを務めてきら中村ゆうじ(59)が、4月3日放送の特番をもって番組から卒業することを発表した。長年繰り出してきた名調子から「大食い=中村ゆうじ」というほどの存在で、スタッフからも「大食いの教科書」と愛された。そんな中村が持つ“教科書”から、いくつかのエピソードを明かしてもらった。
「よく食べると言っても、普通の人は1キロは食べられない。それを4~5キロ、時に10キロも食べるのですから。すごいことです。特殊技能。だから大食い番組は試合であり競技」という。そんな思いから出場者を必ず「選手」と呼ぶ。ちなみに中村は「自分は小食。挑戦は無理」とキッパリ。ただ、長年選手を見続けていきたことから「より多く食べるコツは分かる」という。
1試合は45分。いかにこの間に多く食べるかの競技。「つまり45分でいかに、自分のおなかをいっぱいにするか。ペース配分、食べ方などを見つけることです。強い人は考えながら食べてますよ。最終的には無理しないで勝てる選手が強い。いかに無理しないかですね」。
予選では、食べ方が分からず、やみくもに食べ続け、敗退する人も。「でもそこから、自分なりに方法論を見つけて、自分のエンジンを大きくして、次の予選を突破してくる人もいます。負けて強くなる。どんな努力をしているのか、分からないですが」。スポーツの競技と同じ世界だ。
大食いに、食べ散らかして食べ物を粗末にしているイメージを持つ人も多い。だが「大食い選手ほど食べ物を大切にしている人たちはいない。普段から残った食べ物は、皆さん必ず持ち帰って食べている」と反論する。そんな「量」にこだわる番組に出演する選手たちだが、普段は「質」にこだわっているという意外な一面も。
「もともと食べることが好きな人たち。やっぱりおいしくないとダメ」と番組で出す料理も味にこだわる。試合では苦手食材も食べねばならない。選手の中には、大食い番組の試合で苦手食材を克服した人もいるという。
以前は女子の間に「多く食べることは恥ずかしいこと」という風潮があった。それが、ギャル曽根の登場(2005年)のころから変わってきたという。ギャル曽根ら出場選手のニックネームも、中村が生み出した。
ギャル曽根は最初、食べ方が分からず、大阪予選で5位。そこからトップにはい上がってきた。最初は「好き嫌いが激しく、天ぷらそばの時は天ぷらばかり食べて。記録にならなかった」という逸話も持つ。
大食い番組の収録は1つのイベントとして開催され、会場には選手のほか、見守る多くの観客がいる。その中でMCとして試合を盛り上げ、審判まで務める。常に会場全体を見渡し、瞬時の判断でうまく演出する番組の監督的立場でもあった。
「テレビの画面を見れば、ただ食べているだけ。それを盛り上げるには、現場の人間が大きな声を出し、しっかり盛り上げて迫力も伝えないといけない」。そう心がけ、体全体で番組を盛り上げてきた。選手は、食べる分だけ太るが、中村は「1試合終わるとグッタリくる」と逆に数キロやせていた。
「食べている選手をいかにリラックスさせて、本音の言葉を出させるか」。長年、そんな思いで選手と向き合いMCを務めてきた。
「やっぱり準決勝、決勝になるとすごいですよ。毎回感動します」。
最後のMCとなる放送は4月3日。中村の残した言葉とともに、番組を見てみると、また違った面白さが出てくるかもしれない。(デイリースポーツ・栗原正史)